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この点でよく比較されるのですが、ドイツの戦争処理のやり方というのは非常に参考になると思います。それは別にワイゼッカー大統領がひざまずいたとかいうそういう話ではありません。謝罪のことを言えば、日本だって歴代の総理、あるいは天皇陛下が散々謝ってきているじゃないかという議論もあります。私もそれはそうだと思います、言葉の上では何度も謝ってきていると思います。ただその謝罪を何回やったとか、十分にやったとかやらなかったという話よりも、ドイツのやったことで私が参考になると思うのは、これは大嶽秀夫教授さんの受け売りですが、ドイツのやったことは侵略の戦争と自衛の戦争を分けて徹底的に議論したということですね。

逆に、日本がやったことは何かというと、「戦争的なるもの一切」を放棄したんですね、日本国憲法第9条によって。で、その二つの選択からどういう結果の違いが出てきたかというと、ドイツの場合は侵略した自分の過去の総括というものが徹底的に行われた。しかし、それと同時に、他国の侵略に対する備え、つまり自衛についての努力が憲法改正による再軍備というかたちで堂々となされてきた。ところが、日本の場合はどうかと言ったら、侵略も自衛もないんだ。とにかく戦争的なものは全部否定なんだということで考えることも議論することもはばかる雰囲気がつくられていきました。その結果どうなったかというと、侵略した事実の総括は曖昧、自衛の努力についても曖昧、すべてが中途半端なまま戦後を送ってきてしまいました。

戦後総括という問題についてはいろいろなやり方があるんだろうと思いますが、私は二つ挙げたいと思います。まず一つは、やはり従軍慰安婦の問題が大きいと思います。中央大学に吉見義明教授という方がおられますが、93年当時官房長官だった河野洋平さんが韓国に対して、従軍慰安婦徴発の際に確かに国家の関与があったと認めて、実はこれ今でも本当のところはどうだったのかと議論になっておりますけれども(この観点で、ジャーナリストの櫻井よしこさんが河野元官房長官批判の鋭い論文を書いています)、そのときに重要な史料を吉見教授が中心となって発掘したのですが、彼が発表して、そのときに随分日本の政府情報が開示されました。しかし、彼に言わせるとまだ未公開の史料がかなり残されているというのです。例えば、警察庁が当時その従軍慰安婦の方々たちに発給したというビザの記録も出ていない。

 

 

 

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