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何度も申し上げているように、十全な国防政策を持ったとしても、私は安全保障政策としては片手落ちというふうに思っています。自国の安全保障というのを追及するのに、現行の国際秩序、あるいは周辺国を脅かしてまで日本が頑張ってしまっては元も子もないわけです。これはまさしく我々が前の戦争から学び取った教訓の一つなんだろうと思います。

ここで出てくるのが、安心戦略、抑止戦略のカウンターパートとしての安心戦略です。それは、国際秩序維持に責任ある外交防衛政策をとること、説得力ある論理に基づいていること、透明なプロセスでなされること、この三つです。

まず現行の国際秩序の維持という問題ですけれども、歴史をひもとくと、16世紀以降、大雑把に言って、スペイン、オランダ、イギリス、そしてアメリカと、ほぼ世紀ごとに「覇権国」が交替で世界の秩序を支配してきました。これは国際関係論のタームですが、覇権国というのは現行の国際秩序に最大の責任をもっている国、最大の影響力を有する国、ありていに言えば、腕力、財力、魅力という三つの点でどの国よりも優位にある国を意味します。今は言うまでもなくアメリカです。こういう覇権国家が国際政治の主軸になって、秩序が保たれているというのが、近代のネイション・ステイト誕生以降の歴史の現実なんだろうと思います。

現在の覇権国家はなんと言ってもアメリカです。戦後の通貨体制も通商システムも安全保障体制もすべてアメリカの主導の下に構築されてきました。そして、日本はまさにその国際秩序、金融秩序、通商秩序、安全保障秩序のいずれもから最大級の恩恵を被っている国だという認識が基本になるんだろうと考えます。そこから国際秩序というものを考えたときには、当然その中心にいるのがアメリカ、覇権国であるアメリカをサポートする立場でステイタス・クオ(現状維持)の国際秩序というものを維持発展させていこうという考え方をまず基礎において、日本は国際社会のなかで振る舞うべきだろうと思います。間違っても、再び「秩序挑戦国」にならないということです。これが、「安心」政策における「responsibility」の意味です。

次には説得力のある論理という点ですが、私はこのように考えています。ある人がその主張や行為を行うときに説得力があるといわれるためには、なぜそのように言ったり行動しているかということについて、その意図について、本人も納得している、あるいは周囲も了解していることが最低限必要であろうと思うのです。こういう点で私は日本の現状は、甚だ危ういんじゃないかと思います。これはいわゆる戦争総括の問題であります。

 

 

 

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