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そしてわが国に今ある唯一の歯止めと言えるようなものは何かといえば、それは「憲法の制約」というわけですね。ところがこの憲法の制約をめぐってはいろいろな議論が今まであって、集団的自衛権の行使の問題も含めて、非常に幼稚な、法律だけに特化した議論が国会で積み上げられてきました。しかし、法律論にしたって、集団的自衛権は権利であっても行使できないというような、非常にいびつな議論がなされて参りました。例えば、核の保有についても、岸内閣当時の政府統一見解によれば、必ずしも違憲ではない。しかも、攻撃型空母を持たないとか、ICBM(大陸間弾道弾)を持たないとか、そういったパワー・プロジェクション能力の保有を差し控えるというのはあくまでも「政策的な自制」であって、これも結局は外部環境が変化していけば、やがては説得力の弱いものになっていく運命にあります。

当然のことながらその行き着く先は、相手の猜疑心を惹起して、軍拡競争に陥っていく。これが、いわゆる「セキュリティ・ジレンマ」の問題ですが、このような相互の疑心暗鬼が生み出す軍拡競争こそが、少なくともワシントンの政策担当者が最も危倶するシナリオであるわけです。日本にそういう地域の不安定を惹起する引き金を引いてほしくないと。だから「ビンの蓋」論みたいな議論が出てくるわけです。ビンの蓋論というのは非常に不健全な形の議論ですから、当然のことながら日本人の中から反発が出てくる。いいことは何もないんですけれども、最初に原因をつくっているのは実は日本なのではないか、と私は思うわけですね。

従って、そこのところは、私は「安定」という議論を加味することによってクリアできると思っています。この安定というのは一体何かといえば、現行の国際秩序のバランスを崩さないということです。今ある同盟のストラクチャー(どういう役割分担のもとに同盟協力を進めるか)とか、あるいは周辺諸国との軍事バランスを、急激に崩していくような方向で防衛政策を進めていくことは厳に謹むべきだと。英語では、パワー・イクエイション(力の均衡)といいますけれど、これを崩さないようにしていくことが非常に重要である。しかし、果たしてそういうことを考えて政策決定者あるいは国会議員が議論をしているのだろうか、私は非常に疑問に思うんですね。だからさっき「どうにも止まらない」と言ったのはそういうことです。そういう印象をもし振りまいているとするならば、しかも我知らずですよ、こんな稚拙な外交政策、安全保障政策はないのではないかと思うわけです。

 

 

 

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