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ところで、ここ数年の間に、日本は安全保障に関する重大な決定をいくつもしてきております。その最大のものは、言うまでもなく、新しい「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)です。ガイドラインが両国政府の間で決まったのは2年前の9月。そしてこのほど連休の直前に、小渕首相の訪米を前にして、それを実効化する法整備が何とかまとまったということであります。これは「日米安保再定義」と呼ばれるように、冷戦後の新しい戦略環境に日米同盟を適応させるために、1978年につくられた旧ガイドラインを全面的に改定したものです。冷戦終結から実に10年を費やしているんですが、さっき申し上げましたように日本の安全保障政策の変化のきっかけというのは、サリン事件とか、阪神・淡路大震災とか、あるいはリマの事件とかテポドン・ショックとか、その時々に起こってくる事態に対するリアクションのかたちでポンポンと形成されてくるので、実際のスピードの割には、つまり10年もかけてやっている割には、あたかも急激に変容しているといった印象をぬぐえないのです。外から見ると、いきなりこんなとこまできたのか、大丈夫かなという印象を与えていることになっております。

私も日米防衛協力のガイドラインがとっているコースは正しいと思いますし、まだまだこれしきのガイドラインでは足りないと感じてもいます。中国なんかが批判をしているほどガイドラインはとてつもないことをやろうとしているのではありませんで、それは単なる「後方支援」、しかも、戦闘地域と一線を画し、米軍の武力行使とはあくまで一体化しない範囲での自衛隊の活動なわけですから、そのへんは「ためにする議論」が非常に多いんです。しかし、先ほども申し上げましたように、政策目標と議論のプロセスが見えにくいという問題がありますから、一体ガイドラインを「踏み台」にして日本はどこへ行こうとしているのか、軍事的にどこまでの役割を果たしていこうとしているのか、というのがわかりにくく、結果的に、周辺国からも、友好国からも、同盟国からも、不審の目で見られる。こんなに割に合わない話はないんだというように思います。

そこで、何が問題なのかですが、私は突き詰めていえば、国民も政治指導者も右も左も、みんな奥歯に物の挟まったような状態で議論をしている。つまり、不健全な安保論議の元凶というのは、やはり「戦後の未決算」、1980年代に中曽根さんが「戦後政治の総決算」に取り組んで久しいんですが、やはり戦後の問題、戦争の問題、戦後処理の問題、これを未決算のまま過ごしてきてしまったということにあるんだろうと考えております。カギはなんといっても、「憲法論議の未成熟と戦争総括の未完成」この二つに集約されると思います。

 

 

 

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