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これは脇に置くといたしましても、実際問題としてアメリカの歴史を振り返ってみますと、予算案や法案が審議され始めるのは議会の下院なのです。ですから大統領は政策や経済状況について話すだけです。法案を成立させることはできません。自らその法案を起こすこともできませんし、それを実行に移すこともできないわけです。

したがって、大統領は例えば海外援助のため、あるいは国内産業のために予算がほしいということはできますが、重要なのはアメリカ議会、特に下院が予算法案の審議を始めるということです。つまり、アメリカではご想像以上に議会の力が強いのです。議会の問題の1つは、おそらく日本の国会も同じ問題を抱えていると思うのですが、大勢の人がいるために、1人のカリスマをもったテレビ向きの人が、毎日議会を代表してテレビで話をするということがないということではないかと思います。ですからテレビを見ると議会の風景からは非常に漠としたものしか見えません。1人の人ではなく、大勢の人がいるために、混乱をしていて焦点の定まらないようなことになります。ですから片方にビル・クリントンがいて、もう片方には様々な意見の人がいるために、実際に何が起きているのかつかみどころがないように見えるのです。

しかし、現実問題としてアメリカでは議会にこそ相当の力があるということは確かです。日本また日本の経済にとっては、アメリカの議会が輸入関税などによって貿易を制限するような措置を実施することができるということを考えておくことが大事です。世銀、IMFのような国際金融機関に対するその予算の割り当ても、大統領ではなく、議会のほうで決めていくのです。議会はこのような形でいろいろな国に影響を与えることができます。アンチダンピングの裁定をして、それが日本に影響するということも考えられます。ですから自動車、鉄鋼、ハイテク、何であろうと、議会の議員が選出された地区から何らかのプレッシャーが議員にかかることによって、それが結果として日本そのほか諸外国に影響するということが考えられます。

例えばミシガン州デトロイトの議員のことを考えてみましよう。1名の下院議員にしても2名の上院議員にしてもそうですが、フォード、GMを守ることは彼らの利益にかなうことでしょう。ドイツ製の車、あるいは日本製の車があまり多く輸入されないようにようして、また米国産の車よりも輸入車の方が安くなったりしないようにすることが大事だと思うでしょう。

 

 

 

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