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アチェで2万人ぐらい、これは90年の初めに殺しています。それからイリアンジャヤでやはり1万人ぐらい殺しています。それから1980年代の初めに治安が悪くなったということで、それで入れ墨のある前科者を殺しています。これが大体5,000人ぐらいです。それからあといろいろな事件があります。タンジュン・プリオク事件であるとか、ランポン事件だとか、リリ事件だとか、そのたびに数百人殺しています。こういう人というのは、ほとんど誰が殺されたのかも分からないかたちで、どこかに穴を掘って全部埋めたんですね。これがいろいろな所で出始める。だから、私すぐいつもアガサ・クリスティのこと思い出すのですが、要するに頭骸骨が押し入れの中なんかから出てくるんですね。次から次と出てくるのです。実際に8月ぐらいから、例えばアチェで、アチェの人たちが丘を掘ると、そこから頭蓋骨だとか骨が次から次へと出てくる。

その結果、かつてスハルト時代だったらそういうことは一切ニュースとして報道されなかったのに、今度は頭蓋骨そのものが新聞で報道されるわけですね。そうすると、インドネシアの軍隊はなんなのだ、国民の軍隊だと思っていたら、殺しているのは国民ではないかということになりまして、軍隊に対する国民の信頼は完全に地に落ちてしまう。そうすると、軍隊は国民の信頼がなしには存続できません。ということで、ここでも軍隊の力は急速に落ちていきます。

ということで、これをまとめますと、要するにハビビという人はやはりスハルトの優等生なのですね。だから、スハルトがかつて政権維持のためにやったことは全部やったんです。つまり政治的な反対者が何か言い出す前に、自分のイニシアティブでもって次から次と手を打っていく。国際的な支援態勢をきちっと固める。体制翼賛機構であるゴルカルを抑える。治安の大元締めである軍隊を抑える。全部やったんです。やったんだけれども、それがもううまくいかなくなって、それでハビビ政権はだんだんと弱くなったというふうに言っていいのではないか。

つまり言ってみれば、政治の行動そのものが変わったために、かつてだったら効いた手が効かなくなったというのが、ハビビ政権が次第に弱くなってきたということを示すものではないでしょうか。それではそこで政治の構造が変わっているということはどういうことなのだろうかということですが、ここでは恐らく2つぐらい非常に重要な点があると思います。あるいは3つ挙げてもいいかもしれません。これは単にインドネシアの政治を分析するうえで大事だということだけではなくて、実は例えば日本政府が対インドネシア政策をやるうえで、我々は常にいくつかのアサンプション(仮定)をもってものを考えるわけですが、そのアサンプション自身が、つまり前提自身が今もうおかしくなっているということにもなるので、そういう意味で聞いていただきたいのです。

 

 

 

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