そういったものがつくっていくプロセス、上からの押しつけではなく、自身からこんなものをつくっていきたいという気持ちを汲み上げて、構造物に反映していく。そんなソフトの部分でも研究を深めていかなければいけないと、本当にいま切実に考えています。
いまのところ保全事業には、こんなものがほしいという動機づけから始まって、設計、施行、維持管理、評価という一つのサイクルがあるわけですが、そういったサイクルを回していくのに四つのセクターがあります。市民と企業、行政、学界です。それぞれがそれぞれのできることをするわけですが、それには現状の立場からそれぞれが少しずつ変わっていかなければならない。
すでに市民は大分変わっています。かつては役所のやることを批判するとか、突き上げる、陳情するだけだった市民が、提言できるような実力とセンスを持ち合わせ始めています。一方、企業のほうも利潤追求から社会貢献へ変わりつつあるところが一部出てきています。先ほどのヤシガラの繊維などもある企業から無報酬で提供されていたものだったりもしています。
そして、行政です。ここがちょっとしんどいところという気がしないでもないのですが、いままでは上から押しつけ、説得するというのが、納得づくでできるようなかかわり方に変わる。学者たちも実践の場に出てくる。それぞれがこのように変われば、環境復元はうまく進んでいくのではないかというのが、いまのところの私の結論です。
定刻を若干過ぎましたけれども、こんなところで用意していた話題は終わります。どうもありがとうございました。
司会 工藤さん、どうもありがとうございました。せっかくの機会です。ご自身がいま神奈川県の水産総合研究所に勤められているということですので、ぜひこの機会に何かお聞きになりたいこと等ございましたら。
質問 恐れ入りますが、中ノ瀬の重要性についてもう少し詳しくうかがいたいのですが。
工藤 中ノ瀬浚渫という話は30年ぐらい前から運輸省からありました。この中ノ瀬の重要性というのは、生き物が死んでしまう夏場にも多くの生き物がいるというところです。地理的に中ノ瀬は東京湾の湾口近くにあるというので、条件的に沖の水が入りやすい。それから物理的に浅いということで非常に大事な場所です。夏場には、東京湾の奥のほうで生物がいなくなってしまっているのですが、生き物のほうもただやみくもに死んでいるわけではない。
冬の間、ここにシャコやカレイなどがいっぱい暮らしています。それらが奥の環境が悪くなってくると、南に下ってきて避難するんです。特に中の瀬あたりに集結して、それが夏の間の避難所になっている。それで、こっちの環境が冬になってよくなってくるとまた戻っていくということで、避難所、オアシスという機能です。それから、ここで生み出された子供たちが浮遊幼生として流れて湾奥に定着する。季節的に生物がいなくなる湾奥に新たな生命をもたらせる原点になっている。この二つから大事な場所だということです。