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魚の一生をもう一つ、今度はマハゼです。江戸前ハゼ釣りで一番親しみのある大きなハゼです。いまが旬で、非常に大きくなりおいしい時期を迎えています。ハゼというのは1年魚です。1年で成熟して、産卵を1回して、産卵すると親は死んでしまう。これは冬の産卵期のハゼですが、この時期になるとハゼのオス、メスが外見から容易にわかります。
どっちがオスだと思いますか。上がオスです。メスは見るからにおなかが膨らんでいますけれども、特に上から見ると、オスは顔のエラが張っていて口の幅が広くなっています。メスはスッと口が尖っています。こんなに形相が変わってしまうんです。
これはなぜかといいますと、オスはこの時期に巣穴を掘ります。海底にトンネルを掘って、その中でメスと産卵する。そのために穴を掘るといっても、魚は手があるわけではありませんから、自分の口で海底の泥をくわえては出す。そういったかたちで地道に穴を掘り進んでいきます。そのために、幅広いシャベルのような顔に形相が変わってしまいます。
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その巣穴は非常に大きなもので、こんな大きさがあります。この巣穴の場合、海底面がここなのですが、三つの出入り口がありました。これはその出入り口から樹脂を流し込んで型を取ったものですが、総円長は3メートルをゆうに超える。こんな大きい仕事をわずか15センチぐらいのハゼのオス1匹がやり遂げるわけです。大変な労力ですよ。ですから、その時期の海底でハゼのオスを見ると、くちびるなどの皮がむけただれてしまっています。それでも一生懸命トンネルを掘り続け、感動的ですらあります。
そして卵というのは、ここの巣穴の深いところの天井に産みつけるわけですが、卵はこんな細長い格好をしています。これはマハゼではなく別のハゼのものですが、同じようなかたちです。こんなかたちで天井に産みつける。あんなトンネルの中ですから、放っておいたら卵は酸欠になったりして死んでしまいます。
孵化するまでずっとヒレであおって水流を送り続け、孵化を見届けて、それで役目を全うして、オスは死んでいく。ものすごい働きものというか、人間も見習わなければいけませんね。マイホームづくりから子育てを全部やり遂げて亡くなる1年で、そういった劇的な暮らしぶりをしているわけです。