孵化直後はこんな緑色の卵をしているのですが、生んだばかりの卵は赤だったり淡い色だったりします。これは1匹1匹生んだメスが違うんです。個性というか、体のコンディションで色が変わります。だから、これを数えると、ひとかたまりの卵が、何匹のメスの卵の集合体だかわかる。何匹のメスとオスがつがったかわかるというわけです。
オスが卵を守るためには、東京湾というのはけっこう懸濁物があって、卵の上などに泥が積もると都合が悪い。外敵が卵を狙ってくるのも都合が悪い。そういうのに対して見晴らしのきく、少し高いところが、強いオスの縄張りになっています。
“氷川丸”というのはシャフトが2軸両弦から後ろに出ていて、そのシャフトを支える水平尾翼のような構造が船尾にあるのですが、その水平尾翼が棚のように中空に出ています。その棚の上がアイナメの産卵場所として非常に都合がいいようで、毎年山下公園界隈で一番強そうな立派なオスがそこに縄張りをつくるという、面白い現象が観察されます。
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これは孵化直後のアイナメの卵です。もう子供の目が二つできていて、卵の中でクルクル動いているのが見えます。こんな状況を見ると、いまにもハッチアウト、孵化するのではないかと期待させる。実際に私も泳ぎ出す瞬間を撮影したくて、何時間も粘ったことがあります。
タンクを3本ぐらい付け替えて、6時間潜ったことがありますが、それで3匹ぐらいしか出てこなかった。実はこんな状況になっても孵化まで3日ぐらいかかるそうです。これはあとで知ったことで、そのときはいつ出るか期待しまくっていたのですが。
さて、生まれたアイナメというのはこんな格好をしています。親はあんなに茶色くて海底に這いつくばっている魚なのに、生まれたての子供はイワシみたいです。銀色をしていて平べったく、背中は青い。この姿からもわかりますように、アイナメは生まれてしばらくの間は表層を泳ぎ回る暮らしをしています。海の水面近くが生活の場所なんです。
それが、これはせいぜい5センチぐらいの体長なのですが、ある時期を迎えると急にスッと浅い海底に下りまして、そうすると1日で親と同じような体色に劇的に変化します。これから先このアイナメの子供はずっと海底で暮らすようになります。
ですから、1匹の魚が海底、しかもアイナメの親は岩礁ですが、岩礁で暮らしているからといって、アイナメを守るために岩礁だけをつくってもだめです。子供の時期は水面で暮らしますし、このように着底というのですが、水面から海底に生活場所を移すとき、見てください、こういう砂地、干潟がいるんです。ですから、多様な環境を残さないと、生き物1匹守ることができません。