一方、秋から冬は外気温のほうが水温より下がっていきますから、今度は上の水が冷えて重たくなります。そうすると、表面の酸素を含んだ水が海底まで沈み、循環が起こります。酸素が海底まで行き渡るので、生き物がまた復活する。半年間で、死の世界と爆発的に生き物のわく世界が繰り返し起こるというのが、東京湾の中での生態系のいまの姿です。
ここで、赤潮や青潮の話を少しします。これも半年間、海底で酸素がなくなるということと非常に密接な関係がある出来事です。まず赤潮です。これは夏を中心とした暑い時期に主にできますが、赤潮は植物プランクトンが爆発的に発生して、プランクトン自身の色が海水についているという現象です。植物ですから太陽の光を浴びて光合成を行い、酸素がいっぱいありますから、その中では魚たちも生きていけます。
よく瀬戸内海などで赤潮で魚が死ぬという出来事がありますが、それは毒を生産する特殊な種類のプランクトンに限った話で、東京湾にはそういう毒のプランクトンはほとんど発生しません。ですから、赤潮の中でも生き物たちは普通に生きていけます。
しかし、赤潮は悪い。悪いというのは、赤潮も生命体ですからいずれは死ぬ。寿命というのは非常に短くて、せいぜい2週間ぐらいで死んでしまう。爆発的なボリュームがありますので、本来プランクトンというのはいろいろな生き物の餌になるのですが、食べられきれない。残り物は有機物として海底にたまって、それが腐って、分解していく過程で酸素を使い果たしてしまいます。
海底は酸素がなくなり、酸欠の水が底にたまる。それに追い撃ちをかけるのが、浚渫跡の大きな穴などです。こういうところは水がたまってしまっていて動かない。そういうところで酸欠水が掃き溜めのようになっています。
そういった状況の中で、今度秋がやってきて、冬がやってきて、循環が起こります。
たまり込んで、海底に封じ込められていた酸欠の水が、今度は浅場に涌き上がってくる。これには北からの季節風がおおいに関係していまして、東京湾は北が奥で南に向かいます。そうして北風が吹くと、岸から沖へと水が流れ出す。そうすると、水面近くに酸素に富んだ水が沖に出されて、それを補うように海底の酸欠の水が涌き上がります。このときに硫黄を含んだ酸欠の水が涌き上がってきて、それが青白く見えます。
一見すごくきれいな、珊瑚礁を思わせるような水なのですが、これが実は酸素がないし、しかも有毒の硫化水素を含んだ水でもあります。ということで、生き物は皆死んでしまう。魚も死に、貝も死ぬ。これが青潮です。