この表を見てください。こっちの軸は水深0から5メートル、10メートルと深くなるにつれて、生き物のボリューム、重量がどう変化するか。そして生き物の種類数はどう変化するかというのを示したグラフです。見てください。0メートルから水深せいぜい1メートル、2メートルまでの間に両方ともピークがあります。5メートルを過ぎるともう半分以下になってしまって、10メートルを超えるとほとんどいない。ということは、海の中に潜っていて一番面白いのはせいぜい1メートルか2メートル、本当にごく浅い、背が立つようなところなんです。
ですから、私は長らくタンクを背負うスキューバダイビングというのはやりませんでした。お金がないというのもあったのですが、学生時代からずっと素潜りで生き物を調査してきた。それで十分なんです。こんなところが東京湾の生き物たちのメインの活躍の場です。
そんな浅い部分はもういまはなかなか残っていません。埋め立てられると、急に5メートル、10メートルの深みになってしまいます。そうすると、ここからこっち側の生物は皆いなくなってしまう。ですから、埋め立てると生き物はいなくなってしまう。これは本当に浅い海ほど大事だということです。
次は浅い海が大事な理由その2です。今述べた現象は、逆に10メートルより深いところは生き物が住めないと置き換えたほうがいいかもしれません。深い海に生き物が住めない理由は、夏の時期に酸素がなくなるという現象が起こるからです。皆さんも家庭でお風呂を沸かして、入る前にかき混ぜますが、なぜかき混ぜるかというと、上だけ暖まって下だけ冷たいという状況がお風呂の中で起きているからです。
夏の海の中でも同じ状況が起きています。上から太陽の熱で暖められて温かい水があるのですが、海底のほうは冷たい水がたまったままです。ということは、上と下で水が混じり合いません。温かい水は比重が軽いですから上に浮かび放し、冷たい水は重いですから下に沈み放しです。太陽の光が差し込む浅い部分では光合成が行われて、植物プランクトンが酸素を出す。水面からも波がバチャバチャして酸素が来ます。
そういった酸素の供給が、上で温まったごく浅い軽い水の部分だけで循環してしまって、下まで酸素が落ちていかない。点々は酸素の量ですが、あるところを境に、これは3〜5メートルぐらいの水深ですが、急速に酸素がなくなってしまう。海底は酸素がない世界という状態が、半年間あるんです。酸素というのは生き物が生きるために絶対に必要なものですから、これがないということは生き物は住めない、死の世界になってしまうことを意味します。