今日のアカデミックな内容とはちょっと外れるのですが、南極条約との関連でそのへんがどのように規制されているのか教えてください。
渋谷 南極に基地を出している国はいろいろありますが、領有権を主張している国、領有権を凍結というか留保している国、それから領有権を放棄した国とあります。日本は実は領有権を放棄した国です。敗戦したときにサンフランシスコ条約で実は南極の領有権を放棄しています。
領有権を主張している国、たとえば昭和基地付近の地名にはリュツォ・ホルム湾とか、セールロンダーネ山脈とか、セールというのはノルウェー語で南という意味ですが、南にあるノルウェー・ロンダーネ山脈ということでノルウェーが領有権を主張している地域に入っています。オーストラリアやニュージーランドも主張している国ですが、これらの国々は経度範囲を指定したセクターで主張しています。
先ほど競ってという話がありましたが、1959年のインターナショナル・ジオフィジカル・イヤー、国際地球物理観測年のときに地球のことをもっとよく知ろうということで、世界各国がいろいろな基本観測に力を入れましたが、それの一環で日本も国力のない時代でしたが国家事業として、いまも国家事業ですが、基地を持ってやっているわけです。
そういうかたちで南極観測が続いてきているのですが、領有権を主張している国は必ず基地を持っているかというと、持っていたときもあるのですが、ノルウェーやベルギーはいま実は基地を持っていません。それは南極で基地を持つというのは単に領有権目的だけでやるにはやはりお金がかかりすぎるからです。撤退したり、あるいはどこかと組んで3国で一緒にやるとか、そういうかたちで40年近く経過しているのです。アメリカは領有権を留保というか、よそが言い出すと自分のところも言うよというかたちです。実はアメリカはいち早く南極点を押さえてしまっています。
セクター、扇形で領有権を主張するところは全部南極点で利害がぶつかるわけで、1点を押さえているだけで全体ににらみを効かせられる。だからどろどろしたという意味では確かにそうなのです。ただし科学的な観測に限定し、領有権を凍結した南極条約に加盟しないと基地が持てないので、そういうかたちで数年前まで来ました。そして、どこも条約改定を言い出さず、領有権については凍結したまま現在も各国が観測を続けているわけです。