氷というのは常態が0度から-30度で、気温も常温が20度であることを考えれば、1度の気温変化は実際にはものすごく大きい割合なわけです。ということでゆるやかな変化のように見えても気がついたときには取り返しがつかない。人間の歴史は地球の歴史に比べれば非常に短いしあっと言う間ですが、そういう短い人間活動であっても地球全体のバランスを変える力を持つようにある意味ではなってきているというのが実感です。
ちょっと長引いてしまいましたが、これで話を終わりたいと思います。
司会 渋谷隊長、どうもありがとうございました。せっかくの機会ですので、もしお客様でご質問等ございましたらぜひお願いします。
質問 大変素人の質問で申し訳ないのですが、最終氷期のあったころ日本の場合ですと、たとえば大陸と樺太と海上がつながってしまって大陸のトナカイのような動物が、本州のほうまで渡って来たというようなことがあったように聞いております。
そういうふうに陸のかたちもずいぶん変わってくると思うのですが、南極の場合ですと、たとえばそういう南極全体のかたちが変わって、そのために海流の変化があって、その海流の変化が南極の氷の状況に影響したことがないのかどうか。そういうことを素人ながら考えます。そういうことがあるのかどうかわかりませんが、南極と南米との間の海峡が非常に狭くなったとか、そういうことは何か可能性があったのかどうか教えていただけたらと思います。
渋谷 私も全部の質問に明快に答えられるほど専門的な知識はないのですが、地球の歴史は46億年と言いますが、2億年前には南極、アフリカ、オーストラリアなどが全部つながっていた。それがプレート運動で分裂して、離れていくときに大きな海流変動とかは当然起きています。南極でも恐竜化石が見つかっていますから、恐竜が生息していた温暖な時代も当然あったわけです。今日の話はそれよりはもっと時間スケールが短く、30万年ぐらい前からの話です。
最終氷期は1万2000年前頃で、南極はすでに現在の位置にあり、氷床が一番大きくなったのがたぶん1万8000年前ごろだろうと言われています。そのとき海の水が雪という形でどんどん大陸に付け加わっていって、海面が120メートル分ぐらい下がったであろう。 120メートルというと、いまの大陸棚の位置近くまで面積が広がったと思われるのですが、2倍とか3倍にはなっていないだろうということです。しかし地域差があって西南極側は海の堆積物を取って調べると、今よりずっと大きかったらしいけど、東南極側では氷床がものすごく張り出すということはなかったらしい証拠が最近見つかりつつあるようです。ただ氷は非常に不安定な物質であることは間違いないので、正直なところどうなればどれだけ張り出すとか、確実にわかっているわけではないと思います。