水晶のエージングによる周波数経年変化と同じように、重力計の場合も経年変化がゼロではありませんので、それを差し引いて実際の変化をつかまえる必要がありますが、それも夢ではないというところまで実は来ています。
昭和基地は非常に条件のいいところで、堆積層というのがありません。地表は岩盤です。
堆積層があるとそこには地下水が含まれるわけで、水が動くと重力変化に結びついてしまいます。だからこういう非常に精密な量を測ろうとしても地下水が行ったり来たりするとそのことによって重力変化してしまい何を測っているのかわからなくなってしまいます。
堆積層がないことが昭和基地にとって非常に利点になっています。
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レジュメに書いたのですが、結論は何かと言えば1年、10年というスケールの氷床変動について増えています、減っていますと今パッと言えるほどにはまだ科学は進歩していませんが、過去に大きな変動があったことは間違いなく言えます。一方、将来予測については、計算機シミュレーションでいろいろな人がモデル計算をやろうとしています。ところがこれは非常に複雑な関係図になっていて、素過程だけで10以上あります。
海水温が低下すれば蒸発量は確かに減少する。だけど気温が1度減少すると蒸発量がどれだけ減少するかというパラメーターは正確にはわかっていません。それらわかっていないパラメーターが組み合わさってモデルは成り立っているわけです。この関係図はある一つのモデルですが、このモデルが正しいかどうかということも実際には検証の必要がありますし、矢印の向きも微妙です。それにいろいろな時間スケールの素過程の組み合わせなので、それほど単純ではない。モデルをうまく組み立てられるかどうか、割合難しいところです。
水の話ですが、平均滞留時間と書いてありますが、海水は動いたり蒸発しますから言ってみればある年数がたてばそっくり入れ替わるわけですが、これが3200年ぐらいと思われます。雪は1万年、水蒸気だと10日とかです。先ほどのモデルは気体の水蒸気、海水、固体の氷と三つそれぞれ時間スケールの違うものが組み合わさって安定性が決まっているわけで、氷については平均の入れ替わり時間は2万年とか1万5000年という数字で考えられています。
南極とグリーンランドで平均滞留時間は違うわけですが、南極での流出量は年間約2.2×1012トンです。だけど水蒸気が中に輸送されて雪となって降ってそれが積もって、氷になるわけで、全体としてはバランスしている。昇華と言ってそのまま蒸発していくやまと山脈みたいなところもあるわけですが、見かけ上、いまのところ収支はだいたい釣り合いが取れていると思われています。