また昭和30年に森永の徳島工場で起こった森永ドライミルク中毒事件は、これはヒ素中毒です。牛乳を粉乳にするのに本当は牛乳を冷蔵して保存すれば、この問題は起きなかったのですが、高度成長下で利益優先の考えから品質を安く保管できる方法は第2リン酸ソーダを加えると牛乳が安定するということで、それを加えました。そして第2リン酸ソーダはヒ素を大量に含んでいたのです。ヒ素の含有量の検査もせずに牛乳の中に入れ、そしてそれから粉乳をつくったのです。
品質を安価に保存するには、冷蔵庫よりも第2リン酸ソーダをつかったほうが安上がりであるとの利潤の追求からこういった失敗が起こりました。そして1万2000人の乳幼児がヒ素中毒にかかって、うち 130人が死亡しました。これこそ企業の利益追求のための犠牲者であると思います。
九州で起こったのはカネミ油症事件です。PCBの被害です。九州のカネミ倉庫で製造中の米ヌカ油、つまりライスオイルの製造工程の途中で、加熱したPCBを金属パイプの中を通していたのですが、その金属パイプが腐食していてピンホール程度の小さな穴があき、その穴からPCBが原油の米油の中に混ざったのです。製造業者はそのことには全く気付かずに販売業者に回し、市販され、その結果、大変多くの人が災害に遭って大騒ぎになりました。
九州大学の調査ではその症状は身体中に吹き出物が出る。チーズのような目ヤニが出る。皮膚の色が色素が沈殿して黒ずんでくる。汗を非常にかくようになる。手足表面の毛穴の角質化、目の回りがはれる。関節部がはれる。そして貧血、白血球の増加、肝臓障害を起こして体重が減り、黄疸症状が進んで昏睡状態に陥って死亡する。そういったことを九州大学が報告しております。1976年の調べでは全国のカネミ油症患者は1万5400人にものぼりました。
PCB汚染されたライスオイルの販売は昭和47年に禁止になりましたが、やはりPCBに汚染されたその土地や水はそのまま残っているのですから大変恐ろしいことです。またPCBは農薬にも世界中で利用されていますから、PCBの入った農薬を山林にばらまくと、それが雨水に溶けて、また川から海へと流れ、大変に被害を広く及ぼしています。
われわれが美しいと思って見ている海洋はいまや汚染物質の掃きだめと化しつつあります。そして地球上でこの汚染は大気、雨水、河川、そして人体へと悪循環を繰り返しているのです。PCBに汚染された小魚やアミ類をアザラシが食べて、アザラシの大量死を招いたこともあります。PCBもDDTと同じく、人の体内に入ると免疫力をだめにするという恐ろしい薬品です。