そのカジュアルなときにいまおっしゃったように汗をかくからタオルを首に巻くとか、草履を履く。そのクルーズでは非常に目立ったというお話ですが、今回の3カ月のクルーズでは、少なくとも草履や首に襟のないものについては朝食とお昼についてもご遠慮くださいという話をしていました。私も率先して食事のときの服装はご注意をするように乗組員には言っているのですが、やはり長くなりますと「なぜ、飯を食うのにネクタイをしていかないといけないのか」というのも一理あることはあります。
雰囲気を見ながら、たとえばいまのランドツアーから帰ってきて、そのままダイニングに入ってお食事をしていただくときなどは、それもやむを得ないのではないかということをしています。ただもうお乗りになっていただいているのでおわかりだと思うのですが、乗る前の案内書や最初のパーティーのときには、私は必ず申し上げています。特にフォーマルについては「俺はフォーマルなどは嫌だ。なぜ高い金を払ってタキシードなどを着ないといけないのか」と言っている人もいます。
少し話が長くなってしまいますが、ドレスコードの意味というか、客船独特のドレスコードでネクタイをしろぐらいのことはありますが、これは普通のホテルではないです。客船は人間関係が非常に密になるスピードが速い。同じ釜の飯を食っているというか、同じところで肩を組んで走っているという親近感で皆様が仲よくなるスピードが速い。ということはお互いにどんどん気を許し合ってしまう。
皆様が自分でここだけは立ち入ってほしくないエリアがある。私もあるし、皆様にもある。私のエリアは宗教のこと、そちらの方はたとえば家族のことを言われるのが嫌だ。それぞれ自分たち独特のバリアがあって、そのバリアを浸食しないようにお付き合いしましょう。しかしそれは船の場合はものすごく仲よくなってしまうので、往々にして浸食しやすいから、10日に1度、1週間に1度ぐらいはフォーマルで着飾ってみて、1歩、2歩われわれの人間関係をあらためてみましょう。そのときにはせいぜいめかしこんでくださいというのがドレスコードです。
要はファッションショーをやろうということではなく、精神的に少し距離をつくりましょう。そのための小道具としてドレス、フォーマルを使いましょう。インフォーマルを使いましょうということです。それをたぶんわかっていただければ、お客様も自然にそのようになっていただけると思います。これは不愉快な思いをさせてたいへん恐縮でしたが、われわれのほうとしては機会があるごとにそのドレスコードの意味をご説明して、やはり服装は自分のためではなく、他人に対する礼儀ですから、何とかそのようにいていただきたいという説明をしているのが現状です。