昔まだ気象予報がうまくなされないころ、このお坊様にあって、漁船がパタパタと三陸沖や北海道の東で遭難したという例があるのです。その超スピードの豆台風みたいなのに、第1回目のときにつかまりました。神子元島の沖で6メートルか7メートルのうねりなんです。普通だったら、これだけのうねりがあるとお客様のことも考えて、少しコースを変えて、なるたけ揺れないようにそっぽのほうに走るのですが、そのときはどうしても神戸まで行って、世界一周に乗る方がまだ 150名ぐらいいらっしゃいますので、その方たちをお乗せしなければいけない。それで何が何でも目をつぶって神戸まで突っ走りました。
すると事務長が私の部屋に来て「キャプテン、これは冗談じゃないけど聞いてほしい」「どうした」と言ったら、相当数のお客さんが神戸で下りたいと言っている。まだ1日も経っていないのにこれだけ揺れて、これから 100日間とてもじゃないけどもたないから下ろしてくれという話を事務長がしました。それも困った。「それなら横浜で乗船の人は神戸では下船禁止ですと言ってくれ、上陸禁止です。」(笑)「税関さんの許可がないから」とか嘘を言って、なんとかなだめました。
それでも下りたいという方はいらっしゃったのですが、なんと時化たのがそれだけなんです。あとの九十何日間は時化無しで帰ってきた。ですから神戸から乗った方は時化を知らない。神戸乗船組と横浜乗船組では、横浜乗船組の人のほうが格が上のような顔をしていました。(笑)船の中でお食事やお酒のときには、「あなたはしけを知らないから」などと言いながら、ずいぶん話題になっていました。
海の時化はなかなかで、「キャプテン、あなたは世界一周で乗っていくけれど、どこで時化るのか」と言われますが、いまの話のように目と鼻の先で時化ますから、何とも言えません。ただこれだけははっきりしているのは、少し乱暴な言い方ですが、船酔いで亡くなった方は全然いらっしゃらないし、平均的に3日間過ぎれば、だいたいノーマルに戻りました。
揺れた話の後でこんな話をしても皆さん信用してくれないと思うのですが、いまの客船は、フィンスタビライザーがあったり、少しコースを変えたりしてあまり揺れません。
われわれはローリング、横揺れと言っていますが、横揺れの場合にはフィンスタビライザーといって、船の横から飛行機の羽根のようなものを両側に5メートル出します。私はいま後ろを向いていて、皆さんは船の前を向いているとすると、こう揺れた場合、こちら側を揚げるような揚力を働かせるようにコンピュータのフラップとスタビライザーそのものを動かします。ですからだいたい大きな横揺れにはならない。