いちばん肝心なのはお金もお金ですが時間です。100日も家を空けるわけですから、そうとうにのんびりした気持ちで出てこないと、うちが心配で途中で帰りたくなる。途中で帰りたいという方はいままで一人もいらっしゃいませんでしたが、今年のクルーズは一人の方は胆石、一人の方は盲腸、もう一人の方も盲腸になりました。世界一周に出るときは医者二人、看護婦二人の4人体制でほぼいろいろなことができるようにしていくのですが、盲腸や石の場合には陸上医に診せます。
国にもよりますが、けっこう早く手術をしてしまいます。手術をして「どうしますか。日本に帰りますか」と言うと今年は全員船に戻っていらして「縫ったところは糸が抜けないと飛行機に乗せてくれないのではないですか」と言っても、まだ糸を抜かない間に飛んで来られたりして、日本へ帰った方は皆無です。それほど皆様快適に走っていらっしゃいます。
いま健康的なことも申し上げ、ここにも書いておきましたが、“飛鳥”の今年までの世界一周のいちばんの北はベニスです。「皆さん、いちばん北はどこでしょうか」と言うと、だいたいの方はニューヨークだと思うのですが、実はニューヨークではなくベニスです。いちばん南はどこかと言うとシンガポールです。ベニスが北緯45度ちょっと北で、シンガポールは0度50分ぐらいで赤道ぎりぎりといったところです。
そのように南北には大きく走らない航路を採用しており、日本から出て一気にシンガポールまで35度ぐらいから0度ぐらいまで下りる間がいちばん気象の変化が激しい海域です。
もう一つ激しいのはニューヨークから一気にカリブ海まで下りる海域ですが、それ以外はそれほど厳しい気候の変化はありません。皆様が世界一周に出る前にいろいろなお話を聞いてみますと、冬物から夏物にかけて全部持っていくからたいへんですとおっしゃいますが、とりあえずは「そんな真冬のものはいりませんが」と言うと、皆さん「ニューヨークは寒い」とおっしゃるのですが、この時期、4月は気候によってはニューヨークは時間によっては半袖でも暑い時期です。やはり欧州というか、ベニスのほうが少し寒いようです。
そういうことであまり気象の変化の少ない、いちばんいい時期をねらって走るようにしています。ですから冬の季節風が少し収まった3月に日本を出て、南シナ海、シンガポールまでまだ季節風の強くない時期に南まで下りる。インド洋は夏になるとモンスーンが吹きますので、やはりモンスーンが6月ぐらいから吹き始めますと、これは南極からくる大きなうねりがきて、たいへんなことになるのでその前にインド洋を通過します。