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最近、ナビトークなどで、船長よもやま話を始めると必ず出てくる話題が“タイタニック”です。“タイタニック”の映画のおかげで、たくさんの方に客船に興味を持っていただくようになりました。非常に正確にできている画面のため、乗ってくるお客様の質問が非常に鋭く、私も2回ほど見たのですが、やはりプロの人が気がつく点や皆様の単純な疑問点など、非常に正確にできている映画だと思います。

ただ“タイタニック”という船の映画は、船の映画ではなく若い男女のラブロマンスです。「船長、いちばん前に行ってもいいですか」という話があるのですが、“飛鳥”に乗っていて「何をしに前に行かれるのですか」と聞くと「ちょっと手を横に広げてみたい」などと言います。あれは非常にかっこよく手を広げて2人で並んでいるのですが、あそこは走っているときに船でいちばん危険な場所です。

こんな話を始めて“タイタニック”をご覧になっていない方はたいへん恐縮ですが、あそこは通常、船では立入禁止になっていて、“飛鳥”でももちろん立入禁止ですし、だいたい欧米の客船でもあそこは乗組員専用になっています。港に入ったり出たりするときに、あそこに何人か立っている写真がけっこうあるのですが、あれは全部乗組員です。お客様に開放している船はほとんどないと思います。

ラブロマンスとしての映画の評価はたいへん高いと思いますし、そこを私が話をする資格も全然ありません。ただ“タイタニック”の事故はわれわれ船乗りにとっては非常に印象深いものです。映画ができるまでもなく、“タイタニック”以降という言葉がずいぶんあり、“タイタニック”以降改善されたポイントで重要なポイントが三つあり、一つが“タイタニック”の事故を教訓として、お客様、乗組員が全員乗れる救命ボートを船に乗せなさいというルールがまず決まりました。これは当たり前の話で、それまではどうだったのかと言ったら、それまでは要は全員が乗るボートがなかった。なくてもよかった。

第2番目として、映画を観た方はもうおわかりのようにSOSを打っているのですが、ほかの船の無線局が「今日は終わり」とポンと閉めてしまった。これではいくらSOSを打っても聞いてくれる人がいないではないかということで、SOS、これはもう少し専門的に言うと500キロヘルツと言いますが、この電波の波を24時間当直しなさい。当直の無線士が24時間500キロヘルツを当直してSOSをつかまえなさいというルールが2番目にできました。

 

 

 

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