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厚生省の「5つの選択肢」によると、基礎年金で言えばスライドの停止、年金受給者の中で相対的に所得の高いグループについては国庫負担分(3分の1)を遠慮してもらう、更に、支給開始年齢を65歳から67歳、場合によっては70歳に引き上げることになる。

保険料を上げることができなければ、残るは税しかない。所得税、法人税は国際標準や、直間比率等の点から増税は難しい。残るは消費税。ECの統合時の標準税率は15%である。しかし、現在15%でとどまっている国は一国もなく、どこの国でも上がって、25%まで行っている国もある。付加価値税を上げて年金保険料を下げる調整をドイツ、スペイン、ポルトガル、スイスで行なっているのである。

日本は消費税導入時に、所得税・住民税減税をパックにした。所得税・住民税を今後減税する余地はない。消費税をあげる時の見返りになるものは年金保険料しかない。財源を年金保険料から消費税に転換すると、負担する当事者に違いが出てくる。物を買えば子どもも老人も皆一律に消費税を負担する。年金保険料は現役が負担するので、財源の転換により現役の負担が軽くなる。一方子どもと年金受給者の負担が増えるが、子どもの負担は親が賄う。年金受給者の負担が増えるのは政治的には非常に難しい調整である。しかし、高齢者が結果的に負担増になるのを承知の上で、ドイツ、スペイン、ポルトガル、スイスでは付加価値税の増税を受け入れたのである。年金受給者にとっては給付カットも消費税負担のどちらも楽しいものではないが、どちらかの選択を提起された時、消費税、付加価値税を上げる選択が多数派となった。日本もそのような調整になると思うし、また期待している。政治的にはかなり難しい調整であるが、これは議論を重ねて行く以外にない。

消費税アレルギーの強い理由は逆進性である。しかし国民年金は定額保険料で、これは最も逆進性の強い人頭税そのものである。年金目的の消費税に変えれば逆進性は一部残るが人頭税はなくなる。定額の国民年金保険料を払う代わりに消費税を払う。負担だけ見れば消費税は逆進的であるが、使う目的は基礎年金である。基礎年金(月額6万5千円)は所得の高い人、低い人も同額である。絶対額で見ると所得の高いグループは消費支出も高いので、当然消費税の負担も多くなる。定額の基礎年金であれば、消費税で負担した以上に年金給付で返ってくるのは所得の低いグループである。所得の高い人達は消費税で払った分が年金で返ってくることは少ない。基本的に所得の高いグループが財政負担をする構造となるので、給付と負担を合わせて考えると消費税の逆進性は消失する。逆進性問題は年金目的の消費税を基礎年金財源とすれば変わる。あとは税率を上げる時に、国民負担を全体として増やさない調整をすれば消費支出は落ちないであろう。

1998年10月の厚生省試算によると、2025年で年金目的の消費税率は5.9%である。今が5%であるので長期的にいうと消費税は11%まで上がる。ヨーロッパ標準との4%の差は、介護・医療あるいは国・地方の一般財源に使う余地がある。

 

 

 

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