そうなると60歳代前半に対する労働需要はむしろ減ると考えられる。供給は増え需要が減るのであるから価格(収入=賃金+年金)は下がる。低賃金を甘受してようやく得るものが、職ということになる。厚生省の考えは、60代前半の人達を非常につらい立場に追い込む可能性が強い。そのようなことをどうしてしなければならないのか。
3 受給要件45年の意味するもの
ここでは拠出要件の強化を主張する。つまり、モデル年金受給に必要な保険料拠出年数を40年から45年に延長することである。中卒の場合は15歳で社会に出るので、45年拠出は最速で60歳で満たす事ができる。高卒の場合は18歳で社会に出るので最速63歳で充たす。しかし63歳まで働くことが出来なくても、60歳定年を考えると不足する年数は2年〜3年であり、45年分の43年、45年分の42年は拠出しているのだから減額率は10%にならない。大卒は22歳〜23歳で社会に出るので、67歳〜68歳まで保険料を払込むことが求められる。また、大学院卒は30前後で社会に出るので、75歳まで保険料を支払うことが求められる。45年拠出を充たすことは絶望的であり、当然減額の対象になる。大学・大学院卒は保険料を払込んだ分、例えば、45年分の40年、45年分の35年の割合で年金が支払われる。つまり、拠出要件の強化は学卒、大学院卒の人達の年金を減らす方向になる。
高卒・中卒に比べて大卒・大学院卒は給与が高く、報酬比例年金の額も高いはずである。つまり年金給付を抑制する際に、年金額が高いグループ、65歳まで働くことが比較的容易なグループに譲ってもらうというのが拠出要件強化案の意味である。それに対し、支給開始年齢引き上げ案は、相対的に早くから社会に出た人が影響を受けやすく、技術革新の波に対応できなかった人達に泣いてもらう案である。そのどちらかを選ぶかの選択問題で、政府は支給開始年齢引き上げを選んだ。
4 消費税を新財源に
残るは基礎年金の財源問題である。アレルギーの強い消費税を年金の財源にすることができるのか。
年金保険料の引き上げは、個人所得を減らし消費を一段と冷え込ませ、法人にとっては人件費を増大させリストラを加速する。今は保険料を上げられるご時世ではない。消費税もいやだ、保険料は上げられない、新財源もないとすると、残る調整法は支給をカットするのみである。