この金額は大卒の初任給より高く、むしろ余裕のある金額である。歳を取るとともに消費支出が落ちる傾向があることを考えると、高齢になった時は現金よりはむしろ、医療・介護サービスの充実の方が有難いのではないか。
物価スライド化によってピーク時の年金保険料が30%まで下がる。
3]基礎年金部分を税方式に
政治家は、基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げるとしている。私は、基礎年金は全額国庫負担(つまり税負担)に転換する方がいいと考えている。基礎年金は今、3分の1が国庫負担、残りの3分の2が年金保険料負担である。これをすべて税金負担にすると保険料の守備範囲は報酬比例部分だけになる。保険料負担の範囲が小さくなることで、ピーク時の保険料負担も計算によると20%まで下がる。
4]モデル年金受給要件を45年に
日本では、モデル年金の受給要件は保険料を40年間払込むことであるが、将来は保険料支払い期間を45年間にするという提案である。
支給開始年齢引き上げの意味するもの
支給開始年齢の引き上げは何を意味するのか。報酬比例年金の支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げた時、影響を受けるグループがある。65歳まで働きなさいと言われた時、職を見つけることが比較的容易なグループは何の影響も受けない。しかし、65歳定年社会が実現しそうもない中、60歳以後も働けと言われても職がないグループがいる。特に、世界的大競争の中で、スピードの速い技術革新ついていけないグループは歳を取ると肩叩きの対象になる。あるいは、中卒や高卒で早くに社会に出たグループの勤務年数は長い。65歳定年の社会の実現は決して容易ではないし、現にそれを行なっている国はない。日本でも高齢者をめぐる雇用環境は最悪に近く、有効給求人倍率は0.06倍、就職率は1.6%である。職探しは難しく、職があっても低賃金(およそ9万5千、10万)を甘受せざるをえないケースが多数である。企業は新しい技術を持った人を求め、古い技術しか持たない人を肩叩きし淘汰する流れを今後も継続していくであろう。
支給開始年齢を65歳にする場合、希望する人には60歳から減額年金を受給できる制度が用意される。問題は減額率である。現在国民年金の基礎年金で行なわれている減額率は42%であるが、これでは高すぎるというのが関係者の常識である。報酬比例部分の減額率については3割程度に変更されると言われているが、いずれにしても相当な減額である。要するに、職が手に入らず60歳から年金を希望する人は減額された年金を受給する、これが支給開始年齢引き上げの意味である。
60代前半層は、企業にとっては年金つきで労働市場にやってくる人達である。つまり企業は年金分だけ給与が安くてもいいという調整をする。支給開始年齢の引き上げにより年金が減額されると、企業は給与をあげざるをえなくなる。