日本財団 図書館


第I部

先進各国における年金改革の動向

 

はじめに

 

イギリスでは1980年代のサッチャー首相時代に、従来では考えられなかったような社会保障関連のシステム改革を断行した。メージャー前首相がその後を継ぎ、保守党政権が十数年続いた。その間、福祉の分野でも見直しが続き、年金制度も例外ではなかった。他方アメリカでも、レーガン大統領時代、ブッシュ大統領時代と共和党政権が続いた。

1980年代の主要国の流れは、誤解を恐れず整理すると「小さな政府」を求める動きであったと理解して間違いない。当然のことながら、社会保障、公的年金をできるだけ小さいものに変えていくことを大胆に提案し、国民の大多数が受け入れ改革が行なわれこの流れは90年代前半まで主要国の基本的な動きであった。

ところがアメリカでは、クリントン大統領が1992年に選出され、政権を担当する党が共和党から民主党に変わった。イギリスでも、保守党が選挙で大敗し、労働党政権となりブレア首相がニューレイバーという標語の元に政権を担うこととなった。

ヨーロッパ主要国では、現在は殆どの政府が社会民主党政権であり、80年代に標榜した「小さな政府」路線に対する見直しに着手している。

小さな政府の政策は、社会保障の分野で言えば、すべての社会保障給付を一律に切りつめるという乱暴な整理もあり、社会保障給付は所得の高い人も低い人も普遍的に受給するシステムが多かった。給付を一律にカットする方法は、所得の低いグループが相対的にマイナスの影響を受けることになり、特にしわ寄せが高齢者の方に顕著に現れて、高齢者の中には生活保護と同様の給付を別途受けないと生活に支障を来す階層が増えることになる。

このような社会システムの変化が、90年代の多くの政権交代の引き金になったものと理解されている。特にイギリスとアメリカが代表的な例であるが、国民の不満を吸収し従来の保守党や共和党と異なる新しい国の関与のあり方を模索し、新しい提案を行っているのが最近の状況である。

ここでは、イギリス、アメリカ、ドイツにおける年金制度の変容を中心に紹介し、スウェーデン、フランスについては若干の紹介にとどめたい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION