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●現在のシステムでは、貧しくなければ公的サービスが受けられない、国民の福祉システムへの信頼が薄れ、公的サービスに何を期待してよいかも明確ではない

福祉国家体制のもとに長く国民保険を払ってきたのに、その保険が必要になってみると無料のサービスは受けられず、まず自分の資産を処分することを求められる。そして資力がなくなった時点で初めて公的サービスが受けられる。高齢になったら各種サービスが無料で受けられるという約束を国がしたわけではないが、説明が十分なされないままにシステム全体が急速に変化してきたため、人々の間には国家との契約が反故にされたという感情があり、これが福祉システムへの不信感、無力感につながっている。

 

●在宅ケアよりも施設ケアを推進せざるを得ないシステムになっている

民間の施設(レストホームとナーシングホーム)に入居した場合、社会保障からの所得補助が支給される。一方、自治体で在宅ケアを可能にするためのケアパッケージを用意すると、利用料が徴収できるとはいえ、施設入居コストよりも割高になる。したがって、現在のシステムでは施設ケアが優先されやすく、本人にとってもっとも適したケアを確保することが難しく、本人の威厳と自立を犠牲にせざるを得ない状況になっている。本人のニーズをいかに満たすかに焦点を充てる必要がある。また、在宅ケアは増加傾向にはあるが、要介護度の最も大きい人々に偏っており、予防面に予算がまわらなくなっている

 

●高齢者が安心して任せられるシステムになっていない

上でみたような理由から、高齢者は介護が必要になったときにどうなるのか不安を抱いている。介護度の軽度な人へのサービスが十分ではないため、介護が必要になったときには病院か高齢者ホームしか選択肢が残されていないという状況が想定できる。これが現実だとすれば、現在のシステムが高齢者のニーズを満たす態勢になっているとはいい難い。個々の高齢者にとって最善の選択が可能になるように、時間的余裕が必要である。もし自宅生活への復帰の可能性が残されていれば、その道を常に用意できるシステムでなければならない。

 

●公共サービスのベストバリュー(最大効果)が達成されていない

現システムが施設ケアに偏っているため、対費用あるいは本人への最適ケアという面でも、公費の最大効果が達成されているとはいい難い。サービスの水準がまちまちだし、サービス供給主体も多様化して単位が小さくなり、質的に十分なサービスが購入できる保障がない。サービスコストと質の間の関係もはっきりしない。

 

 

 

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