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第4部 高齢者対策の課題

 

以上、高齢者対策の現状として、国民医療サービス、対人社会サービス、社会保障給付、そしてNPOの果たす役割などについて述べてきた。英国では日本の老人福祉法のような高齢者を対象とした総合的な制度は存在せず、一般的な制度の組み合わせで高齢者問題への対応がなされている。それだけに、時代時代の政治理念や社会テーマに応じて対策の内容が影響されるという結果になる。例えば戦後の高齢者対策の推移をみても、児童や障害者に比べ、高齢者向けの対策は軽い扱いになりがちだった。1990年にコミュニティケア法が制定され、地方自治体が要介護者に責任を持つようになったが、増加するケア需要に比べて財源は緊縮傾向にあり、また民営化の要素も加わって行政対応にもとまどいやバラツキがみられている。しかし、これから高齢者対策の重要度が増してくることは統計的にも明らかであり、新たな対応策が必要とされている状況にあることは間違いない。

1997年に政権に就いたブレア労働党政権は、高齢者対策への取り組みを選挙公約の一つとしており、その後の対応でも現状改革を積極的に進める姿勢をみせている。ブレア政権の改革路線は次章で詳しく述べるが、その前に現在の高齢者ケアの課題について整理を試みておきたい。課題の分析で参考にするのは、1999年3月に出された王立委員会の報告書である。この委員会はブレア首相が選挙公約の一つとして1997年12月に設立したもので、高齢者の長期ケア対策についての検討が諮問されている。同委員会では現場での聞き取りやNPOとのコンサルテーションを徹底して実施し、また一般市民から寄せられた1438通の手紙から厳選した生の声を本文中に挿入し、全体として現在の問題点を厳しく追及する内容の報告書をまとめている。報告書の中で指摘されている課題を整理するとつぎのようになる。

 

●官僚的な組織論が優先され、高齢者のニーズに合わせた対応になっていないため、複雑でわかりにくく、時間もかかる

医療、社会サービス、住宅などに関する政策担当、財源、説明責任、政策の優先順位などが異なり、縦割り構造になっているため、コスト節約を理由にケアの責任を押し付けあう傾向があり、高齢者にとっては複雑でわかりにくく、しかも多くの時間を要する。この複雑さのために、高齢者の自立と自由な選択が犠牲にされてしまっている。自治体のマネージメント文化は変わりつつあるものの、まだ組織の都合が優先され、利用者本位のマネージメントとはなっていない

 

 

 

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