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老齢年金制度の中でも最大組織の一般制度基礎年金制度では、2040年には3,470億〜4,030億フランの赤字になると計算している。

すでに数年前から老齢年金制度の改革が始められており、一般制度では満額年金受給のための保険加入期間が延長された。しかし国立統計経済研究所(INSEE)の推測によれば、人々が短期間のうちには退職年齢を遅くすることはないだろうとみている。1998年には、老齢年金保険金拠出者と年金受給者のバランスが崩れた時に使われる財源を蓄えるために、政府は資本準備金を創設した。しかし1999年現在の準備金額は20億フランに過ぎない。

 

(2) 増加する要介護高齢者

 

フランスの75歳以上人口は、2010年には550万人、2040年には1,000万人を越すと推定されている。後期高齢者の著しい増加は、要介護高齢者の数が増加することにも繋がる。労働・連帯省は、2020年には、要介護高齢者が現在より10万〜20万人増加するであろうとみているが、最悪の想定では50万人増加するとしている。今日のフランスの高齢者福祉政策では、要介護高齢者のための対策が最も重要な問題の一つとなっている。

フランスでは、老人ホームあるいはケア付きマンションに入所したいと思った時には、よほど経済的に豊かな人でなければ営利目的組織が経営するデラックスな施設に入ることはない。長期医療ケア機関は公立病院であり、高齢者施設も自治体や非営利目的協会が運営する施設が主流であるため、高齢者施設に入所に当たって特別な費用を頭金のような形で支払うことはなく、入所料金は1日当たりの金額で設定されている。高齢者施設の料金を支払えない所得の人には、県が与える社会扶助で住宅手当が支給される。高齢者施設の料金の上限を定めるのは県である。すなわち施設の料金は、老齢年金で支払える程度に設定されているともいえる。

しかし高齢者施設には要介護になってから入所する人が多くなったために、施設の従業員の負担は大きくなり、県議会が認可する一律料金では十分なサービスを提供できないという問題も一部ではおきてきている。例えば地方都市のある老人ホームの館長は、高齢者に十分なサービスをするためには1カ月30万円くらいの料金を設定する必要があると発言している。現在のところは高齢者施設の料金は、施設ごとの一律料金として定められるが、今後は入所者の介護度によって定められることになっている。この措置が有効であるかどうかを見守る必要があるであろう。

ところで第5章でみたように、現在では要介護者の世話には家族や近親者が大きな役割を果している。しかし将来もそれが期待できるだろうか。1995年にCREDOCが行ったアンケート調査では、フランス人の49%が、高齢者の介護ケアのための支出は「本人の身内だけ」が負担するのが望ましい考えているとしている。

 

 

 

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