また、高齢者は「衣」、「食」「住」と「医」(医療)そして亡くなった時の「葬」(葬儀)の五つについて保障される(「五保」)として、これを各省、市の老人憲章等に唱うとともに、恵まれない老人のケアを地域の行政、党そして住民が協力して行う体制づくりを推進している。しかし、こうした老齢委の活動も、その活動が目立つのは大都市部であり、高齢化の進んでいる地域であって、人口構造の若い中国西部の地方区では旧来の敬老思想の普及が老齢委の主要な役割と言えるところもある。
しかし、1990年代になると、改革開放政策の進行や高齢化先進都市部と後進地域の対策格差も大きくなり、地域の実情に対応した対策は地方の政府や老齢委の独自性を認め、上海市の対策推進等はそのモデルとして位置づけている。
老齢委中央は、1989年「老齢科学研究所」を設立し、日本のエイジング総合研究センターの協力で、天津、杭州、無錫の三大都市の「高齢者生活実態調査」(各市1,000名の聴取り調査)、上海市の「在宅要介護老人実態調査」(1,000名)を行うなど、高齢者の実態把握にも力を入れている。
1997年、中央の中国老齢委は名称を改め「中国老齢協会」となり、1999年には、この協会を事務局とし、その上部組織として「中国老齢(問題)工作委員会」を設置することとなった。これは今後21世紀の高齢化社会に対する中国の新たな対応と言えよう。
(2) 「老年権益保障法」等対策
「老齢問題委員会」設置の背景には、増加する退職高齢者の問題があった。とりわけ大都市部には恵まれない高齢者とともに、退職により生きがいを失いかけた若い高齢者が多く、生きがい就労、学習、趣味娯楽などの需要ニーズに応えることが老齢委の役割でもあった。しかし、市場経済の進展に伴い、国有企業ですら退職者養老金(年金)の支払いが滞るなど、退職高齢者で老後生活に不安を抱える者も少なくない状況もみられるようになり、上海市等では「上海市高齢者保護条例(法)」(1988年)等が制定されている。
全中国の高齢者に関する法令としては、1996年に発布された「中国老年(高齢者)権益保障法」(略称「老年法」:資料頁参照)がある。
「老年法」は1996年8月第8回全国人民代表大会常務委員会会議で採択され、「中華人民共和国主席令」として同年10月1日公布されている。その内容は、高齢者の扶養、社会保障、社会参加、そして法的責任を明記したものであり、1] 国と社会はあらゆる措置を取り、高齢者の社会保障制度を整備し、高齢者の生活・健康、社会参加の状況を向上させ、高齢者の扶養、医療、社会参加、生涯学習、娯楽を充足させる。