世代を超えたふれあいがコミュニケーション技術を磨く
こうした感覚を磨くのはマニュアルでも学校でも社内研修会でもなく、日常生活での経験だと浅松さんは強調する。「ところが今は家族の中にお年寄りがいる家庭も少なくなってきていますし、近所付き合いも限られて、子供も大人も幅広い人とのコミュニケーション技術を磨く場がなかなかありません。それでマニュアル通りにしか接客のできないファーストフード店の店員とか、仲間同士でないと意思疎通ができないといった事態が出てくるわけです」
同じく、輪切りの社会構造が現代において円滑なコミュニケーションを阻害しているのではないかと危惧するのは、コミュニケーション工学からコミュニケーションツールとしての顔についての研究をはじめ、「顔学」という新しい分野に取り組む東京大学工学部の原島博教授である。原島さんがリードする「日本顔学会」は、この夏から秋にかけて東京上野の国立科学博物館で「大顔展」を開催し、全国からおよそ二八万人もの入場者を集めた。
みなさんは電車の中でお母さんに抱かれた赤ちゃんと目が合ったらどうするだろうか? ニコッと笑顔を返す人、目をそらす人、無視する人、さまざまだろう。原島さんは、最近の傾向として無表情な人が多くなっているのではないか、そしてこれは道行く人が同じ人間なんだという視線がなくなってきている表れなのではないかと指摘する。
地域のつながりが強ければ、地元で知っている人に出会う機会が多く、いつ誰と出会ってもコミュニケーションを取れるという気持ちを持って行動するが、都会などでは他者はすなわち赤の他人であってコミュニケーションの対象外。