とかく批判を浴びがちな昨今の高校生だが、山名さんの目に映る彼らの姿は、二一年前も今も変わらず、純粋そのもの。そして、こんなふうに選手とは違う視点から野球を見ることによってアマチュア野球の魅力に気が付いたら、最近では、プロ野球はあまり見なくなってしまったほどだという。
「プロは技術を見せることが仕事ですが、アマチュアはフェアプレーが基本。そこが高校野球のいいところでもあるんです」
誰が見ても百点満点の試合をするのが目標
山名さんが選手のひたむきさに胸を打たれるのと同様に、長年私利私欲と関係のないところでがんばる山名さんを誇りに思い、応援してくれる仲間も多いという。もちろん、その筆頭は妻の賀代子さん。
「うちは家族経営の町工場ですから、ぼくが試合に行くとなると、嫁さんにその分負担がかかる。家族の協力なくしては、続けてはこれませんでした。また、同業者もこんな小さな町工場から甲子園の審判をする者が出るなんて、と喜んでくれますし、"頼むわ、急いでるんで"というと、"明日、審判なんやろ"と、優先的に資材を卸してもらえたりもする。ありがたいことですわ」
とはいっても、実は、審判をするための時間をどう作り出そうかと悩んでいた数年前までと違って、最近は仕事量が激減。会社は不況にあえいでいる。そんなこともあって、顧問税理士からは、「こんな経営状態のときに、審判なんかしている場合じゃないでしょう」と叱られているとか。それでも、たとえ日曜日だけでもいいから、審判を続けていきたいと山名さんはいう。
「確かに、仕事の量を確保し、会社を立て直さなければならないというプレッシャーが重くのしかかっており、平静な気持ちでいられないときもある。でも、大切な時間を使って審判をするわけですから、そのときだけは仕事を忘れ、試合に集中するようにしたいんです。それに、選手たちのはつらつとしたプレーを見ていると、自分もうじうじ悩んでおらずに、ぶつかってかなあかんなという気持ちにさせられるんですわ。選手たちには負けてられへんとね」
今や審判のボランティアは、山名さんの生活の一部であり、生きる張り合いにもなっている。