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そしてとうとうある日、担当医師からこう告げられた。

「もう、ここまでが限界です。脊椎損傷による体幹の機能障害で、一生歩けません」

それまでは、いつかは治ると信じていた。

立ち上がって、着られなかったスーツとハイヒールを履き、オシャレをして青春を満喫するんだ。そう自分に言い聞かせて、どんな辛い検査や治療にも耐えてきた智子さんにとって、それはあまりにも残酷な宣告だった。

「頭の中で何かがプツンと切れました。そして、事故に遭ってから、初めて声をあげて泣きました。これで、もう、私の人生は終り。生きている価値などないと」

入院以来、二人三脚でがんばってきた母も泣いていた。そして絶望の中、自ら命を絶とうとさえ考えた智子さん。

そんな彼女を引き戻したのは、母のひと言だった。

「一生、お母さんが守ってあげる。今より少しでも良くなることを信じようよ。それでも疲れたときには、一緒に死んであげる……」

 

せっかく授かった命。

自分がどうなろうと生みたかった

 

家族の応援もあって、その日から、母の口癖でもある「やってできないことはない。やらずにできるわけがない」を肝に銘じて懸命にリハビリに励んだ智子さんは、三年間にわたる長い入院生活を終える時には、寝たきりの生活から車イスを自在に動かせるまでになり、障害者用の運転免許も取得。退院後も家に閉じこもることなく、失われた青春の時間を取り戻すかのように、愛車に乗ってあちこちをドライブしたり、家族旅行、映画鑑賞、ショッピングなどを次々と楽しんだ。

「最初のうちこそ、外に出ると周囲の目が気になりましたが、車イスだろうが何だろうが、自分の体の一部には違いない。嫌といっても、一生のパートナーとして自分が認めてあげなければ前には進めない。そう、思ったんです」

 

 

 

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