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待ち合わせのJR長野駅前のホテルに着くと、まだ時間前だというのに、すでに、ロビーには智子さんの姿があった。

当初はご自宅で話を伺うつもりだったが、手だけで運転できる障害者用の運転免許を取り、どこへでも軽いフットワークで出かけてしまう智子さんが「うちは田舎だから、ここまで来るのは大変。その日はちょうど、コーちゃん(息子・幸四郎君)の二歳の誕生日なので、プレゼントを買いに行く用事もあるし、私が市内まで出て行きますよ」と申し出てくれたため、その言葉に甘えてしまった。そして、車イスをまるで自分の足のように操る智子さんの先導で、カフェテラスの席に着くと「今は、毎日仕事にも行かなければならないし、車イスダンスにも夢中だし、でも、コーちゃんとも少しでも長く一緒にいたいし…。何で、一日は二四時間しかないんでしょうねえ」。そう言って、とびっきりの笑顔を見せた。

 

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一生歩けないと言われた時、生きている資格はないと思った

 

三人兄妹の二番目に生まれ、何不自由なく過ごした幸せな少女時代。そんな智子さんの運命が一転したのは、高校を卒業して、わずか一週間目のこと。友人と一緒に、たまたま乗り合わせたタクシーの乱暴な運転で事故に遭ってしまったのだ。

「事故自体は大したことはなく、その時はケガもないと思ったんですが、夜になると三九度前後の高熱が出て、吐き気もひどくなってしまって。それでも、これは単なるむち打ちで、家で寝ていればきっとよくなる。そう信じていました」

しかし容体は日に日に悪化するばかりで、事故から一週間目に入院。やがて、全身がしびれ、寝返りさえままならなくなった。むち打ち症(頸椎捻挫)というのが病院側の当初の診断だったが、急に進んだまひに対して、医療はあまりにも無力だった。手を尽くして検査をしても、治療をしても、依然、歩けなくなってしまった原因を突き止めることはできない。

 

 

 

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