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「スモール イズ ビューティフル」に寄せて

カルドマ木村哲子さん

 

●本誌5月号特集で紹介した記事に対し、「アメリカの情報をぜひ伝えてほしい」とはるばる投稿が届きました。一部要約してご紹介します。

 

「スモール イズ ビューティフル」。この題名に感動して思わず筆を走らせました。

今から二四年前、四七歳で一人となり、自分の老後のことも考えて、老人学と高齢者施設のマネジメントの勉強のため渡米しました。そしてサンタモニカ海岸の近くの家庭で通学を条件としてベビーシッターをしました。その家庭の主人の昔からの友人が訪ねてこられたときに、「あなたは年を取っていて、ろくに英語もできないで、何のためにアメリカに来たのですか?」と、まるで教師が生徒を尋問するような感じで尋ねられましたので、私は自分の目的と、語学のハンディのために勉強が進まない悩みを訴えました。

彼はしょんぼりしている私の顔をしばらく、蒼い目でにらむように見つめていましたが、やがて考え深そうな声で、

「私の友人が、自分の自宅を開放して、六人の老人と共に暮らしているから、この日曜日に案内しましょう。日本にそのようなホームがあるかどうか知りませんが、アメリカでは地域に数多くあって、主に老人性痴呆症の人が生活をしていますよ」。私が彼のその言葉に心を躍らせてその誘いを即座にお受けしたのは言うまでもありません。

それぞれの家が大きくて静かに品のある屋敷町の一角にそのホームはありましたが、表には何の表示も出ておりませんので、外からは、そこが老人のホームとは全然わかりません。三〇人くらいは楽に入れるような広いダイニングルームで、男性二人、女性四人のご老人、みなさま七〇歳はとうに過ぎている感じでしたが、それぞれに個性豊かなおしゃれをして、ちょうど夕食が済んだばかりの時でした。華麗なピアノのソナタがオーケストラをバックに、ラジオから室内に静かに流れておりました。一人の男性は、部屋の隅に置かれてあるソファに深く寄りかかって、ピアノの音に耳を傾けておりました。

 

 

 

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