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今後の動きを探ってみると、わかった範囲では高知県などで新たに導入を検討している程度。厚生省大臣官房政策課によると、「政策として検討課題に上がってはいるものの、具体的な進展には至っていない」のが残念ながら現実だ。

民間ではどうだろう。実は山形県山形市の殖産銀行が今年六月から新たにリバース・モーゲージに参入している。同行では「まだ具体的なケースはないが、今後は子供が都会に居を構えて土地を子供に引き継ぐ必要がなくなった層にニーズが広がるのではないか」(営業統括部)と見ている。これ以外でも信託銀行等が以前は取り扱っていたのだが、近年はいずれも休止状態。安田信託銀行融資推進部によると「地価の下落が著しい地域では導入がむずかしく、また長寿者が増加することで融資期間を読むことが困難になってきている」ため、ビジネスとしては及び腰になる。高齢化と共に期待された同制度が、その高齢化の進展でとん挫してしまうとしたら、何とも皮肉な結果だ。九七年には年金福祉事業団で保険を付加したリバース・モーゲージ制度の導入を検討しているが、まだ具体的な形にはなっていない。また不動産シンジケーション協議会(TEL03-3591-2221)のように、不動産の所有権を先に売却し、生涯住み続ける権利を有しながら売却代金を終身年金形式で受け取るフランスのビアジェという不動産売買契約の日本型を提唱しているところもあるが、具体的に参入した話はまだ聞こえてこない。

リバース・モーゲージヘの注目は、一面、老後の生活に不安を感じる高齢者の心の表れとも取れる。制度自体の見直し、新たな付加を付けた改善も待たれる一方で、高齢者の就業雇用、年金保険問題など根本的な制度の環境整備が待たれているのはいうまでもない。

一方で、かつて資産を代々長男に譲って家を保ち、老後も面倒みてもらうという人生設計がすでに崩れつつある現在、リバース・モーゲージは「美田を子孫に残さず使い切る」という高齢者の意識改革の起点ともなりうる。自分で築いた資産は一代で使い切るという個のライフスタイルを選択するかどうかも、また、試されているのである。

 

 

 

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