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秋月さんは公団住宅の空き家抽選に外れたばかり。だが「七月も八月も申し込みますよ。何とかなるでしょう」と屈託なく話す彼の幸運を願うより仕方がない。

立ち退きの際、ペットの多くも車と同様、置き去りにされた。猫や犬だけではない。ウサギも人気のない空き家にひょっこり顔を出す。

食べるものはあるのだろうか。

 

二〇歳の「未来都市」…。

 

ポートアイランドで、公団住宅にすでに入居している人を訪ねてみた。阪神・淡路大震災を記録し続ける会の常連の寄稿者、綱さん、七一歳。東灘の本山で家屋全壊。親類縁者の家を泊まり歩いたがいつまでもそうしてはいられないと西神の仮設に入ったあと、公団住宅の空き家に申し込んだ。県が二〇年借り上げてくれる。奥さんは震災以前からボランティアもやる元気な人だったが、このところ体調が思わしくない。

「意外に緑が多いので楽しんで散歩しています。家内も誘って」

建設当初、未来都市ともてはやされたころにはまだ木々が若く殺風景だった辺りも、二〇年経って成長した木々は豊かな緑のトンネルをそこかしこに形作る。六甲の小鳥たちも渡ってくる。

「七〇歳以上優先のお陰で去年入居できました。私の居た仮設は百戸のうち六戸だけが残っていましたけど、この五月には全員引っ越したそうです」

二年間、元の家を再建したものかどうか迷った。子供も反対するし、年を取ってくると、一軒家の戸締まりにも疲れる。「マンションは年寄りには気楽でいい」と笑う。

貿易の仕事はファックスと電話で十分に片付く。

 

 

 

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