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「まだ人が居るんですね」と言って笑われた。全部廃車だった。

「置き去りもあるし、捨てに来る者もいるし。潰してもらうのも金が要るしね」

菜園の跡を丁寧に耕していたのは、まだここに暮らしている中年の男性、秋月さん。

「三か月でナスやキュウリができます。引っ越して行ったおばあちゃんが花を作っていたんで肥やしが効いてますよ」

棟の道路の真ん中には鳩が群れていた。時々パン屑らしいものが投げ出される。鳩たちは一瞬身をよけ、すぐに突つき出す。

「おじいさんがずっと、餌を投げているんです。寂しいんでしょ。気持ちはわかりますがね」

仮設住宅は当初三月で解消と発表されていたが、間もなく六月末まで使用延長が認められた。復興住宅の完成が遅れているので抽選に当たっても七月八月まで残る人もいる。七月からは、不法占拠ということになる。法律上はだが。

大半の仮設住宅ではそれほどの支障も無く退去が進んでいるのだが、ここポーアイの場合は若年単身者が多いので、他の仮設よりかえって残留者が多い。震災直後、高齢者から優先的に入居した仮設。比較的若い働き盛りが最後まで避難所に取り残されて、最後に残った者たちがこの人工島に集まったわけだ。ここは最後に建設された仮設だという。

この地域で、四月末現在、総数八〇〇戸あった世帯は残り八五戸となった。うち単身者が七二戸と圧倒的だ。あとは三人所帯が一戸、二人家族が十二戸。仮設で死亡した人は二五名。物置と化している家が三二戸。

話をしている間に移転した二人が秋月さんを訪ねてきた。今度の休みに仮設同窓会を開くという。「イチゴ狩りに行くんです。ぼくは五〇になるまで後三年はあります。会社勤務なんであまり町外れに行けないんですよ」

 

 

 

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