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これまでも介護の必要な高齢者は「老人日常生活用具給付等事業」によって種々の福祉用具の給付を受けることができたが、介護保険が実施されると、行政による「給付」ではなく、他の「モノ」と同じように利用者が自由に市場から選択できるようになる。さらに厚生省は福祉用具について公定価格的な仕組みはとらず市場価格による取引に委ねることになっている。このため市場競争が促進され、消費者の多様なニーズに応えるより良い福祉用具開発が加速することが期待されている。

課題もある。介護保険法は法目的として「高齢者の自立支援」を高らかにうたっているが、レンタルも購入も含めて保険でカバーする福祉用具の範囲が限られている。しかも対象になる福祉用具は高齢者の自立支援というよりは、介護者の介護支援という色彩が濃い。予算措置による給付から保険による権利へと制度が変わるにもかかわらず対象となる福祉用具の範囲は狭く、固定的である(左下表参照)。

介護保険では認定された要介護度に応じて保険給付限度額が決まり、その範囲で(あるいは自費で上乗せして)必要な介護サービス等を購入することになる。したがって、被介護者の個別身体状況やライフスタイルに応じた多様な選択が許されるべきであるし、そのことが被介護者のQOL(生活の質)向上のためには不可欠である。

特に、福祉用具は利用者の身体状況等の違いによって、その効用や必要性は一律ではない。どのような福祉用具が効用が大きく、必要であるかは、利用者の身体状況、ライフスタイル、嗜好等をできるだけ客観的に評価し、それに対する福祉用具の適合性を科学的に判断する必要がある。欧米においては医療・福祉専門家による福祉用具の選定作業は、個人の熟練のみに頼るのではなく、利用者の身体状況等やそれに適合する福祉用具の処方に関する評価手法に基づいて行われている。

宝の持ち腐れにならぬようわが国においては経験を積んだ少数の専門家がその熟練や独特の知識に基づいて福祉用具の選定・処方を行っているが、それらの優れた技術と豊かな知識は必ずしも広く一般に伝達して共有化されていないため、画一的、お仕着せの形で福祉用具の処方が行われがちだ。

 

 

 

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