男子厨房に入らず。そんな土地柄に生まれた妻を介護することになり、武藤さんはそれまでのぞいたこともなかった台所に立った。今は二週間ごとに、病院と自宅での介護をくり返している。高校の教師をしている娘さんは、勤め帰りに母を見舞うため、横浜からわざわざ二時間二〇分かけて実家のある千葉県松戸へ通う。外科医の長男も勤務先の病院から週一回様子を見に来る。
「結婚して四四年になりますが、一度も家内とけんかしたことがありません」とほほ笑む武藤さん。永口さん同様、日頃から家族内の愛情のネットワークが築かれていたことが伺われるが、一方武藤さんは「仕事時代の仲間も大いに支えになっています」とも語る。
「教頭時代の仲間と毎月一回会っているんです。自分の家に何か悩み事があるとすぐに連絡を取り合う仲間です」。第四金曜日に会うため「四金会」と名付けた。この会では年に一回の旅行をもう一〇年以上続けているという。
また、家族や友人だけでなく、地域で築いたネットワークを大いに活用している人もいる。横浜市磯子区在住の田村定夫さん(七四歳)。「友だちというと地域の人だね。学校が地元で同級生も周辺にいる。人とけんかすることが嫌いだから仲間が多い。肉屋とか魚屋とか、みんな面倒みてくれるんだ。『奥さん病気なんだから肉は柔らかい方がいい』とか、店主はみんな同級生。男同士で教えてくれるんだ」と笑う。朝の六〜七時、介護の合間を見て公園の清掃や水やりをボランティアで続けている。地元広池町公園愛護会の副会長も務めている。