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妻が拒否する ?

夫がいない妻のネットワーク

 

実際に年を重ねていき、やがて支援が必要な状態というのはいろいろあるが、多くの男にとって予想だにしたくない妻の介護という現実もある。そうなった時、男はいったいどんなネットワークを持っているのだろうか ?

永口新平さん(八三歳)。平成元年に脳出血で倒れた妻を自宅介護している。永口さんの場合は、「やはり、一番の支えは家族でした」と、家族の絆としての愛情ネットワークを語る。一四歳の時に富山県から上京し、運送屋で働き、その後北里研究所から付属病院へ。さまざまな雑務をこなした永口さんだが、実直な性格と仕事が丁寧なためにいつまでも重宝がられ、奥さんが倒れるまで現役だった。

「息子と娘の助けがなければ、ここまでとてもやってこられませんでした」と述懐する永口さんには、故郷富山に兄弟が五人いる。この人たちが、久しぶりに帰ると集まってきて、いろいろ心配してくれる。そんな兄弟の愛情ネットワークも大きいという。

確かに、愛情のネットワークの最たるものといえば、やはり家族、夫婦だ。しかし、「妻の愛情のネットワークは大変豊かだけれどその中には夫がいない、けれども夫のほうを見ると妻しかいない」(高橋恵子さん)という、悲惨な状況は少なくない。子供すらも入れるのをためらうほど、長い間会社人間をやっているうちに、家族との絆もおろそかになってきてしまう。

永口さんのように、いざ、というとき、家族が心からすすんで支えてくれる関係を日頃から築いているかどうか、多くの男にとって自問する必要がありそうだ。

武藤礼三さん(七三歳)は小学校の教職を経て、教育委員会や社会福祉法人などに勤務、やはり妻が倒れるまでは現役だった。

「家内は、鹿児島県の出身です。結婚して両親に会いに行った時、自分の飲んだ茶碗を台所に持っていき義母に怒られました。」

 

 

 

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