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都立井の頭恩賜公園は、武蔵野の面影を残す雑木林と自然文化園、運動施設など約三六万m2に及ぶ広大な都民憩いの場。日本最初の郊外公園として大正六年に開園し、園内東西に伸びる「井の頭池」の命名者は徳川三代将軍家光とも伝えられる歴史ある公園だ。連日、若いカップルから子連れの家族、ジョギングする人から楽器の練習をする人等々さまざまににぎわう同園に、近頃また、ちょっと変わった名物が生まれていた。それは昔懐かしい紙芝居。が、ただの紙芝居にあらず。くり抜いた紙面から生きた人間の顔がのぞき、表情豊かに登場人物を演じる。ある土曜日の昼下がり、まだ、春浅い三月の半ばだというのに、現地では上演前からすでに黒山の人だかりができていた。

やがて時間となり、紙芝居の紙面にピカ後藤さん扮するピノキオの顔が突然現れた。

「嘘をつくと、あれぇ〜、鼻が伸びるんだ。嘘って楽しいなぁ」

そんなセリフとともに、ピノキオの鼻がどんどん伸びていく。が、その鼻は最後にハサミでパチン!と切られてしまう…。絵の中の鼻やハサミを磁石で動かすことで、一枚の絵でいくつものシーンが表現されていく。演出を手伝うのは一人息子のダン後藤さん(26歳)。

このオープニング作品『ピノキオ』を含めて、この回の演目は全六話。一話の時間は五分前後だが、風刺ものから家族愛を扱ったものまで内容はさまざまで、もちろん、すべてピカさんが創作したオリジナル。上演が終わると、子供や若者たちがピカさんを取り囲んだ。

人は彼を『顔面紙芝居師』と呼ぶ。

 

ホコ天パフォーマンスで、人に見られる快感を覚えた

 

ピカさんがこの顔面紙芝居をはじめたのは昨年の二月からだが、実は彼には、大道芸師ともいうべきパフォーマーとしてすでに一〇年以上の経歴がある。

岩手県の高校を卒業後上京し、日本橋の帽子商社に勤めたピカさんは、夢大きく「松下幸之助のような実業家をめざして」、六年後、結婚とほぼ同時に脱サラ。デパートや盛り場でのイベントを演出するイベントマネージャー業をはじめた。

 

 

 

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