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Hoshiyama10)らも中枢での姿勢運動を制御するプログラムは、視運動性刺激による情報がその運動開始を調節することを報告している。今回の実験でも、視野が傾斜刺激と同一方向に動くときに錯覚・誤認が増加したことから、台が傾斜したかどうかの自己傾斜感覚は、前庭からの情報によりも、巨大な半球ドームによる視野情報に大きく影響を受けたことを示している。

時々輪ら11)は、視野の影響をより明確にさせる目的で、シーソー台を用いて下肢からの体性情報を大幅に減弱させて視野情報による身体動揺を誘発した。しかし、体重心の動揺がヒラメ筋の活動に反映されたという実験結果から足底部の圧受容器が有効な圧覚情報を姿勢制御に送る可能性を報告している。今回の実験でも、検者自身が被験者となった体験および、実験中の被験者の観察より、傾斜刺激の時に、頭部や体幹、下肢の動揺がみられ、傾斜に対する直立姿勢の維持がみられた。つまり傾斜に対する姿勢制御に関しては、視野情報の影響を大きく受けるが、その影響と伴に前庭、体性感覚情報が補助的役割か、修正として働いているが推察された。

5) 誤認の対策法に関する検討

Marshall & Brown12)によると船酔いにかかった人々をデッキに連れて行き、海の水平線に呼応して船が動揺するのをみせることにより船酔いを抑制したことが報告されている。Amblard13)らやHoward14)の研究では、視野刺激により被験者に生じたvectionが静止した視標の設置で減少傾向にあったことが報告されている。

今回の実験でも、常に静止した基準線を付加し、基準線の無い条件と比較した。その結果、実写パターンの時、視野刺激・傾斜刺激ともに低速の時や、視野刺激が傾斜刺激と同一方向に動く時に空間識失調としての自己傾斜感覚の誤認が減少傾向を示した。すなわち、位置覚の情報としての基準線の設置は視野刺激による空間識失調による誤認を防止するための対策法として有用であることが示唆された。

 

 

 

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