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以上をまとめると、空間識失調としての錯覚、誤認を起こしやすい条件としては、1]視野刺激が星空のパターンより実写風景のパターンの時(周辺視野の位置情報が多い時)、2]視野刺激・傾斜刺激ともに低速の時、3]視野刺激が傾斜刺激と同一方向に動く時、であることが示された。これらの条件は被験者の姿勢維持として、視野情報の影響をうけやすい条件でもある。したがって、視野情報が優先される姿勢制御を修正するためには、全視野が運動するような視野情報を制限すること、あるいは、前庭・体性感覚情報も利用できるような働きかけの必要性が示唆された。

航空機の加速や減速など加速度の変化の時に上方や下方の傾斜感覚が出現するが、Pitch方向の傾斜や視野の変化に関して、緩徐な機体の上昇や下降などに伴う視野の変化と同一方向に傾斜感覚が出現すると空間識失調が発生しやすく、その錯覚現象の抑制として位置情報の認識が重要であることがわかった。今後、この巨大半球ドームとフライトシミュレータを用いて左右方向(Roll)の視野や傾斜での空間識失調をさらに研究を進める必要があると考える。

 

5. まとめ

1. 被験者に対して巨大半球ドーム型の映像表示装置による視野刺激と被験者が立つ台の傾斜刺激を負荷した。そして直後の空間識失調としての自己優斜感覚について検討した。

2. 視野刺激と傾斜刺激の組みあわせにより種々の刺激を負荷した。錯覚、誤認を起こしやすい条件としては、視野刺激が星空のパターンより実写風景のパターンの時、視野刺激・傾斜刺激ともに低速の時、視野刺激が傾斜刺激と同一方向に動く時、であることが示された。

3. 視野情報は錯覚・誤認の発生に重要な因子であり、とくに視野情報に位置情報の基準となる視標を設置することで錯覚・誤認現象の軽減があり、対策法としての有用性が示された。

4. 全視野の視野刺激のときは、姿勢制御に対して視野情報が優先される傾向にあるが、空間識失調としての錯覚・誤認の軽減には、前庭・体性感覚情報の考慮も今後の重要事項と考えられた。

 

 

 

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