しかし、両者の間に統計学的差はみられなかった。高速刺激(傾斜刺激高速、視野刺激高速下向き)の時では、スコアの変化はみられなかった。
4) 視野刺激(実写パターン映像)に基準線を設置した時の自己傾斜感覚スコア(Figure 6)
低速刺激(傾斜刺激低速、視野刺激低速下向き)の時、高速刺激の時(傾斜刺激高速、視野刺激高速下向き)の時、いずれも基準線設置の条件で自己傾斜感覚スコアが減少する傾向がみられた。特に高速刺激の時は統計学的に有意な減少がみられた(p<0.05)。
4. 考察
傾斜刺激が静止で視野刺激のみが移動するの条件について考えてみると、台が動いていないにもかかわらず、「台は静止」した状態とは認識されず、運動感が生じた。つまり実際の傾斜台の動き(静止した状態)に対する認識誤差が生じた。これは、全視野を覆える巨大な視野刺激により誘発された自己運動感覚である。この自己運動感覚とは、視運動性刺激により静止しているはずの自分が動いたと言う感覚、いわゆるvection4)6)と同様な現象であり、空間識失調としての自己運動感覚である。そこで、以下に各種の条件に対する空間識失調の考えを示す。
1) 視野刺激の種類による違いについて
優斜刺激に対する認識誤差は、視野刺激のパターンが実写映像の時にランダムドットの時よりも大きくなる傾向が認められた。これは、実写のほうがランダムドットよりも視野情報がより多いためと考えた。視野情報が多いために,自分が動いたという錯覚、すなわち空間に対する認識誤差が増強されたと考えた。武田ら9)は、視野刺激の種類と重心動揺の関係を調べたなかで、視野刺激で用いた縞条件と風景条件については差がみられなかったと報告している。