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1. はじめに

静止した電車の中で座っている時、隣の電車が動き始めると、あたかも自分の乗っている電車が動いたような錯覚に襲われることがある。また、遊園地にあるビックリハウスのように傾斜する床と壁により、自分の体があたかも回転しているような感覚が生じる。最近では、ヘリコプターパイロットに対する飛行中の錯覚に関する調査1)や航空機事故の原因のなかで、空間識の混乱(spatial disorientation)が関連しているとされる報告もみられる2)。また宇宙空間で、狭い空間から広い空間に移動したり地球を見つめていると、水平移動中に回転感がおきたり、地球の中に落ちるような錯覚や誤認現象が生じることが報告されている3)。いずれもが空間識失調と称することのできる現象であり、その発症機序についてはまだ十分に解明されていない。

こうした空間識失調の錯覚現象に関して、過去には実験的にOKP drumなどの視野刺激を用いた研究がみられる4)5)6)。最近はコンピュータ技術の進歩でフライト型の研究も散見される7)8)

今回の実験では科学技術庁・航空宇宙技術研究所の巨大な半球ドームとそれに対する映像表示装置により過去の諸家の研究ではみられない規模で人間の全視野をカバーできる視野刺激を負荷し得た。さらに、コンピュータを用いて、視野刺激の可動角度と速度をフライトシミュレータの優斜刺激と同期して与えることができた。この実験装置を活用し、我々は、視野情報・前庭覚情報・体性感覚情報の感覚情報を組み合わせて変化させて被験者に負荷した。自分が記憶した傾きの感覚と刺激が負荷された後の傾きの感覚を比較させることにより、実際の傾斜との認識誤差が生じる現象について検討し、空間識失調の発生機序について考察した。

 

2. 対象と方法

めまい・平衡障害の既往と訴えがなく、本実験の主旨を説明し、インフォームド・コンセントを得られた20才代の健康成人ボランティアの8名とした。

 

 

 

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