1988年本態性高血圧患者においてYudkin4)、Samuelson5)は安静時尿中mAlbと心血管疾患の罹患率、死亡率との関連性について検討し、安静時尿中mAlbは心血管系合併症の予知因了となり得ると報告している。我々の検討では安静時尿中mAlbは高血圧性心合併症の指標であるLVMIの程度と有意な相関を示さず、△mAlbのみと有意な関連性を認めた。また左室肥大の形態ごとでの検討でも、左室肥大が進行するにしたがって尿中mAlbは増大する傾向を示した。このことは運動負荷により潜在する尿中mAlb排泄の異常を顕性化する可能性が考えられ、その変化は心血管系合併症の程度と相関することより、高血圧心血管系合併症の一つの指標として有用である可能性が示唆された。
運動負荷時に腎蛋白保持能異常が生じる原因はいまだ明確ではない。現在最も有力視されているのは、腎血行動態の変化それに関与する血管作動性物質の影響である。Castenforsら6)は自転車エルゴタメーターによる運動負荷時の腎血行動態の変化について検討し、腎血漿流量の著明な低下や糸球体濾過量の軽度の低下がみられ、その結果糸球体濾過率が上昇すると報告している。今回の我々の検討では、腎血漿流量の評価は出来ていないが、糸球体濾過率は有意な変化を示さなかった。また運動負荷時にはレニン・アンジオテンシン系の元進やカテコラミン(CA)の血中濃度が増加するが、これらのホルモンを外因性に投与すると運動負荷時と同様の腎血行動態の変化や尿蛋白排泄増加が認められることが知られている。Pessinaら7)はラットにアンジオテンシンII(AII)やCAを投与し、腎機能変化としてRPF、GFRの低下・FFの上昇および尿蛋白排泄量の増加がみられると報告しており、Bohrerら8)はラットにAIIを投与し、AIIがmacromoleculeの糸球体透過性を生じさせることを明らかにした。今回の我々の検討では、運動負荷時に尿中mAlbが異常に増加する症例において、レニン・アンジオテンシン系や交感神経系の反応性元進などが関与している可能性は明らかではなかった。これは内因性のレニン・アンジオテンシン系や交感神経系の調節機構が多因子により制御されている事になどが考えられ、また外因性の投与による作用とは異なる可能性が考えられた。