今回、我々が行った10000feetでの実験では運動負荷により明らかな酸素飽和度の低下を示さなかった。全被検者で運動負荷により心拍出量の増大を認めたことから、運動負荷に伴う酸素消費量の増大を血流増加によって十分代償できたものと考えられる。
今回、ハンドグリップ運動負荷により心拍出量、脳血流量は有意に増加したが、同時にこれは、末梢血管抵抗を増加させるため、心臓に対しては後負荷を増大させ、心筋の収縮性を低下させた。これらの変化量は地上と高度10000feetで明らかな差を認めなかったが、10000feetにおいて心拍出量、脳血流量の増大、心筋の収縮性の低下が大きい傾向を示した。低圧状態ではすでに末梢血管が拡張している状態であり、これに血流増大が生じた場合、健常例でも心機能に影響を受けることを意味するものである。すなわち航空機内での動作や運動は地上よりも心臓、循環器系に大きな影響を及ぼすことを示すものである。
低圧低酸素状態における脳血流量、あるいは頸動脈血流量に関する研究は多い。Huang SY3)らは平地と4300mの高地で内頸動脈の血流速度を測定し、高地では15±7%の増加を認めている。LaManna JC4)らはラットを使い、0.5気圧の状態で脳血流量が38%増加することを報告している。同様にYang YBら5)も山羊を使い高度4000mにおいて脳血流が146±10から185±8ml/(kg・100g)に増加することを報告している。我々の結果も同様に頸動脈血流量の増加を認めた。低酸素状態は脳血管を拡張させることにより、脳血流を増加させるものであり、脳血流の増加は脳組織に酸素供給を増加させ、ノルエピネフリンのレベルを維持する6)ために必要な生命反射と考えられる。
絶食状態と食後の心血行動態を比較すると絶食時は血圧、心拍数、心拍出量、収縮機能、脳血流量はいずれも低く、また、それらの差は地上よりも10000feetの状態において大きい傾向を示した。さらに、この状態で運動負荷が加わった場合、心拍出量、脳血流の変化は絶食時において地上より大であった。