左室流入血流速度波形のE/Aと減速時間は運動負荷により地上、10000feetとも低下したが、E/Aの低下量は10000feetの方が地上より小さい傾向を示した(図8)。血管径と血流量は負荷によりいずれも増加したが、その程度は10000feetの方が大きい傾向を示した(図9)。
3-2. 絶食時の心血行動態、脳血流(図12)
酸素飽和度は地上より10000feetで有意に低値を示したが、絶食時と食後で差を認めなかった。収縮期血圧は地上より10000feetで有意に低値を示し、地上では絶食時と食後で明らかな差を認めなかったが、10000feetでは絶食時の血圧が有意に低値を示した。心拍数は地上より10000feetで有意に高値を示し、また、絶食時の方が食後より有意に低い値を示した。駆出率は絶食時、地上、10000feetとも低下傾向を示し、また、10000feetにおいて食後との差が大きかった。心拍出量と頸動脈血流量は絶食時、地上、10000feetとも低く、また、その差は10000feetにおいて大きかった。
4. 考察
低圧低酸素状態では末梢血管の拡張、血圧の低下、心拍数の増加により心筋の収縮性、心拍出量、脳血管血流は増加する。しかし、その変化量は個人差があり必ずしも一定していない。今回、高度10000feetの設定で行った6名の被検者でも、血圧は-17〜5mmHg、脈拍、1〜14bpm、心拍出量、-1.0〜2.11/min、脳血管血流、-78〜84ml/minの変動を認めている。全員健常例であり、実験中、低酸素、循環不全症状を訴えた例はなかったが、呼吸器循環器疾患や脳血管疾患、動脈硬化例ではより大きな変化を引き起こす可能性がある。
一般に、血中の酸素分圧あるいは飽和度に影響を与えるのは大気圧、肺胞毛細管酸素分圧較差、毛細管酸素拡散、肺胞換気、心拍出量、赤血球通過時間1)などであるが、健常例では大気圧の影響が最も大きい。大気の成分は窒素と酸素からなり、大気圧の減少とともに酸素分圧も低下する。10000フイートでの報告は少ないが、これまで、高度と血中酸素飽和度(分圧)の関係について6000フィートで70±6mmHg、8000フィートで62±2mmHg2)、さらに軽い運動負荷を行うと54±7mmHgまで低下することが報告されている。