1. はじめに
航空機の機内圧は飛行高度の上昇に比例して低下するため、旅客航空機では乗員、乗客の安全のため加圧されているが、それでもなお0.77〜0.84気圧(高度2300〜1700m相応)の低圧状態である。すなわち乗客、乗務員は飛行中常に低酸素状態にさらされている。通常この変化は比較的短時間(20分程度)で生じるが、健常者では心血管の循環状態には大きな影響を及ぼさないものと考えられている。しかし、旅客機内で意識消失発作等の脳循環不全症状を引き起こす事例もあり、航空機内の環境変化が生体の循環状態に及ぼす影響については、十分解明されていない。また、このことは呼吸循環器疾患、脳血管疾患を有している乗客だけでなく、場合によっては健常な乗務員でも同様の症状を引き起こす可能性を意味している。一般に、航空機乗務員は訓練を受けておりこのような環境変化に対して、十分な適応能力を有している。しかし、健康状態が不良のままで乗務した場合、(たとえば、感冒等で水分や食料の摂取が十分でない状態─前脱水状態、前負荷低下状態)、あるいは緊急事態が発生し、肉体的、精神的ストレスが加わった場合(血圧や心拍数が上昇─後負荷増大状態)などでは重大な影響を及ぼす可能性もある。
本研究では運動負荷時、絶食時における航空機乗員の心血行動態、脳血流変化について検討した。
2. 方法
対象は若年健常男性6例、年齢は24〜34歳(28±3歳)。同一被検者に対して絶飲、絶食状態時(12時間)と食後(食料、水分摂取後30分)の2回、低圧実験室において大気圧と低圧状態で各々、ハンドグリップ負荷(最大握力の1/2、3分間)を施行した。低圧実験室にて被検者を左側臥位にして負荷中及び前後で、超音波・ドプラー診断装置、心音計、自動血圧計、パルスオキシメータを用いて酸素飽和度、心機能、血行動態、頸動脈血流を連続記録した。使用超音波装置はAloKA SSD-5500、心臓の観察には3.5MHz、頸部では5MHzの超音波探触子を用いた。