I. はじめに
視機能は、加齢に伴って変化することが知られている6)。また、高齢化に伴い、60歳以上の航空機運航乗員の数も増加することが推察される。しかし、現行の航空身体検査7)では、視機能の明らかな加齢変化が検出される検査はなされていない。従って、航空機運航乗員の業務において、加齢による視機能の変化が内包している問題については明らかにされていない。本研究は、加齢に伴う視機能の特性を明らかにし、これらの加齢による変化が航空機運航乗員の業務に及ぼす影響について検討することを目的としている。
昨年(平成9年)度は、動的量的視野、静的量的視野(青錐体系感度)、視力、および色覚の年代別変化について検討した。その結果、それぞれの視機能ともに加齢変化がみられることが確認された。また、水晶体の影響を除外して視機能の加齢変化について検索するため、白内障術後の眼内レンズ挿入眼においても検討した。その結果、眼内レンズ挿入眼においても視力値および青錐体系感度ともに加齢に伴い低下することが示された。つまり、水晶体の加齢の影響を除外しても加齢により視機能が低下することが確認され、視機能の加齢変化の要因として、眼球の光学的要因に加えて、網膜から視覚中枢に至る視覚伝達路の影響が関与していることが確認された。しかし、いずれの検査法も個人差が大きく、例えば、視力においては、最良矯正視力が正常値1.0以上を占める割合は、70〜74歳においても約90%であった。
そこで本年度は、さらに詳細な加齢変化が検出される検査法について検索するため、航空身体検査法として採用可能で、加えて視機能の変化をより詳細に検出可能とされている色合わせ法とコントラスト感度測定法を用いて、それぞれの年代別変化について検討した。色合わせ法としては、加齢の影響を受けやすい青錐体系反応が検出されるMoreland等色1、2)測定法を採用した。また、コントラスト感度は、通常の視力検査と比べて、より実際的な形態覚(視力)の能力を検査する方法3-5)である。