この場合、騒音を自由音場で負荷すると、験者も騒音下に正誤の判定を行わなければならず、正確な正誤判定が不可能である。したがって本研究では、雑音を検査語音と共にオージオメーターでミキシングし、ヘッドホンを介して負荷する方法をとった。
すべての周波数成分に同じエネルギーレベルを有する白色雑音と、低音域から高音域まで等しい遮蔽効果を持つ加重雑音を代表的雑音として、語音検査レベルを日常会話の話声にほぼ等しい62dBSPLに固定し、負荷雑音レベルを変化させて明瞭度を測定した。
ヘッドホンと6ccカプラを用いて測定した白色、加重雑音の高速フーリエ解析による周波数分析の結果からも、白色雑音が低周波数から高周波数域にかけて平坦な特性であるのに対して、加重雑音は低周波数域に大きく、高周波数域に小さな出力特性を認めた。とくに白色雑音では、加重雑音に比べると1000Hz以上の高周波数域での遮蔽効果がより強いと思われた。
被験者13名の語音明瞭度の平均値を比較すると、白色雑音負荷時には加重雑音負荷時と比べて約10dB程度低値であった。白色雑音負荷時の明瞭度が低値であったのは、その高周波数成分が英語語音における子音の聴取をより強く障害したことが原因のひとつと考えられた。したがって、騒音下の英語語音の聴取においては、負荷雑音が高周波数域に強い出力を有するか否かが、英語語音の明瞭度の低下に大きく影響する可能性が示唆された。
操縦室内雑音負荷時には実際の操縦室内を想定し、操縦室内の騒音レベルが75〜85dBSPL前後であるとの報告(原田哲夫、1983)をもとに、負荷雑音レベルを81dBSPLに固定して明瞭度の測定を行った。高速フーリエ解析による負荷雑音の周波数分析の結果、操縦室内雑音は低周波数域に大きく、高周波数域に小さな出力を有するという加重雑音にほぼ近い周波数特性を有することが示された。同時に、操縦室内雑音負荷時の英語語音明瞭度の実測値は、同じS/N比における加重雑音負荷時のそれとほぼ近い値であった。