いずれの測定条件においても、雑音の負荷によるS/N比の低下に伴い明瞭度は低下した。同じS/N比においては加重雑音(図5)に比べて白色雑音負荷時(図4)の明瞭度がより低値となる傾向が見られた。
全体としてみるとS/N比の低下に伴う語音明瞭度の低下傾向は、操縦室内雑音(図6)と加重雑音(図5)とで類似していた。
雑音の種類にかかわらず、S/N比の低下により被験者間における語音明瞭度のばらつきが大きくなり、明瞭度の低下率に差が見られ、個人間の英語語音明瞭度の格差は拡大する傾向が存在した。
語音聴取の際に見られた異聴の1例を、雑音の種類ごとに、交換、脱落、付加の3つに分類して表2に示した。全体として見ると、白色雑音では無声子音で、加重雑音や操縦室内雑音では有声子音において異聴が多く見られる傾向があった。
4. 考察
平成9年度には、基礎研究として防音室内のS/N比の高い条件下で、正常聴力の日本人に対し日本語と英語の語音聴力検査を行った。その結果、日本語と比較して英語の語音聴取域値は約15dBの上昇、語音弁別能では約10%の低下を認めた。また、英語の語音弁別能や異聴の傾向には、英語経験による個人差が大きく見られることを報告した。
平成10年度には、英語語音聴取の際にいくつかの雑音を負荷し、代表的雑音や操縦室内雑音が日本人の英語語音聴取にどのような影響を与えるかについての検討を行った。航空機乗員を想定した場合、騒音を自由音場で負荷した状態で、ヘッドホンにより語音明瞭度の測定を行う方がより業務の実体に則していると考えられる。しかし、英米国では語音明瞭度の測定を行う場合、被験者が聴取した語音を復唱し、験者がその正誤判定を行う方法がとられている(Kenneth W、1978)。聴取した語音を書き取とる方法では、書き取りの際の英語語学力の影響が考えられるため、本研究においても聴取された語音を復唱させ、それを録音した上で正誤の判定を行った。